短編(過去作)

□とぅいんくる!
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「バカバカバカっ大ちゃんのバーカ!」
「あぁ!?」
「大ちゃんなんて大っ嫌い!ボールが頭に当たって脳震盪起こしちゃえばいいんだ!!」
叫んで、逃げるように家に入って階段を駆け上がり、そのまま部屋に籠もった。
“ように”っていうか、逃げたんだけど。
窓を覗くと、青い頭が決まり悪そうに帰っていくのが見えた。

別に喧嘩なんて珍しいコトじゃない。
家が近所のあたしたちは、小さい頃からいつも一緒で、いつもいつも喧嘩ばっかりしていた。
あたしのお菓子を大ちゃんが食べちゃったり、あたしが誕生日に貰ったボールを大ちゃんが勝手に使って擦り切れちゃったり‥あれ、あたし可哀想。

とにかく、そんなしょうもないことでいちいち喧嘩する程度には近くにいたし、なんだかんだで仲が良い。
あたしを一番よく知ってるのは大ちゃんで、大ちゃんを一番よく知ってるのはあたしだ。
そのはず、だった。

中学に入ってから大ちゃんはますますバスケにのめり込んでいった。
まだ小学生だったあたしは、いつも二人で遊んでいた公園のコートで、一人でゴールを狙い続けた。
1年経って、あたしも帝光中に入って。
そしたら、また一緒に練習できるから。
大ちゃんの見てない所でいっぱい練習して、そんで次に1on1する時には勝ってみせてやるんだ。
あたしは、大ちゃんのライバルだから。
そんな風に、思ってた。

いざ入ってみると、大ちゃんは大ちゃんじゃなくなってた。
相変わらずのバスケ馬鹿だしアホだしガキだけど、
1年で何があったの?ってくらい背は伸びてるし、勿論段違いに強くなってて。
勝てる訳ない。
というか、1on1をやってもくれなかった。
つまらない、んだってさ。

そんな大ちゃんといつも一緒にいるのは、水色の髪の影の薄い人。
影は薄いけど、あたしは直ぐに分かった。
大ちゃんの、パートナー。
その人と居る時の大ちゃんは、嫌い。
理由とかよくわからないけど、とにかく嫌い。

大ちゃんの“トクベツ”は、あたしとお姉ちゃんだけだったのに。


「どうしたの?」
隣の部屋から壁越しに声がする。
「青峰くんと喧嘩した?」
その呼び方も気にくわない。
いつの間にお姉ちゃんと大ちゃんはそんなによそよそしくなったんだろう。
あたしは知らない。
「別に!」
苦笑する姉の顔が見える気がした。

すぐにあたしの部屋までやって来たお姉ちゃんは、布団にくるまっていた私から布団を剥いで、頭に手を置いた。
ぐりぐりと撫でる手は、やっぱり大ちゃんより優しかった。

「せっかく久しぶりのお出掛けなのに、どうしたの」
「‥‥だって」
ふてくされるあたしの頭を、お姉ちゃんはずっと撫でていた。


大ちゃんと一緒にバッシュを買いに行く事になった。
たまたま女バスと男バスのお休みが重なったので、あたしと大ちゃんで。
大ちゃんとお出掛けどころか大ちゃんと一緒にいられる事自体が久しぶりで、あたしははしゃいでいたのだと思う。
スカートをタンスの奥から引っ張り出して、お姉ちゃんみたいなかわいい服を着てみた。
いつもの男の子みたいな格好じゃなくて落ち着かなかったけど、お姉ちゃんが似合うって言ってくれたから、どきどきしながら大ちゃんが来るのを待ってた。

現れた大ちゃんの第一声は、笑い声。
似合わねー!って言って笑い転げる大ちゃんに蹴りを一発お見舞いして、出来る限りの毒を吐いてから部屋に駆け戻った。


「もう、青峰くんはホントにデリカシーないんだから。気にしちゃだめだよ?」
「‥気になる」
お姉ちゃんはちょっとびっくりしたみたいだった。
普段のあたしなら、すぐ頷いて復活するから。
「どうして?」
「わかんないけど。‥大ちゃんは、あたしのこときらいになっちゃうのかな」
もう、傍にはいれないのかな。
こんなマイナス思考になるなんて、あたしらしくないんだけど。

「‥ならないよ。大丈夫」
そう言うお姉ちゃんが、いつもよりずっと大人に見えた。



前方に青黒のっぽ発見!
最高速度で突っ込みます!
アイサー!

「ばかだいきぃぃぃいい!!!!」
「うおっ!!?」
あたしは大きな背中に飛び付いた。

「てめぇ、なにして‥」
「大ちゃんのデリカシーなし!」
「!あー‥悪ぃ」
それなりに悪いと思っていたのか、大ちゃんは見るからにしょげてしまった。
「許す!あたし優しいから!その代わり、あたしのバッシュ選ぶの手伝って!異論は認めない!」
がっちりしがみついたまま、耳元で怒鳴るように言ってやった。

大ちゃんを見るとどきどきする。
なりたい自分を想像すると、いつも隣に大ちゃんがいる。
大ちゃんに嫌われるのが恐い。

この感情はよくわからないけど、まだ嫌われてないなら。
まだ、あたしが大ちゃんの“トクベツ”なら。
年下らしく、ガキらしく。
思う存分甘えてやるんだ。

幼馴染みの特権、でしょ?

「わーったよ。サイコーにカッチョイイやつ選んでやる」
「よっしゃ!大ちゃんセレクトいただきます!」
「なんだそれ」

呆れるみたいに笑うその顔は、あたしの知ってる大ちゃんだった。





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「トゥインクル」by kz

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