短編(過去作)

□人間不信
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わたしは人間が嫌いだ。
というか、恐怖の対象。

まぁ、わたしもそんな人間の一人な訳だけど。

人間の内でもとりわけ男が嫌いだ。
きっかけなんて思い出したくもない。

その上海賊なんかだったりしたら、もうわたしは嫌悪感だけで死ねるんじゃないか。


そう思っていたのに、なぜわたしは今ここにいるんだろう。

生まれ育った島から少し離れた海の中、潜水艦の小さな一室。
周りには大嫌いな男がずらり。

ガイコツの旗こそ掲げていないが、目の前にいるのは間違いなく今朝もバイト先の酒場で見た顔だ。
超高額な賞金の上に載っていた、不健康そうな男。
壁に貼られたその紙が目に入らない日はなかった。

「早くここから出してください帰りたいですトラさん。」

「トラファルガー・ローだ。」

「なんでもいいからはやく。」

「残念ながらもう出航しちまった。」

「知ってる。」

「記録指針は先しか示さない。」

「知ってる。」

「つまり戻れねェって訳だ、わかるか?」

「島まだ見えてるだろうが、引き返せ!」

「断る。」

「死ねよ。」

「死なねェ。」

「……」

最悪だ。
なんでこんな事に。
よりにもよって、大嫌いな人間の内でも大嫌いな男の内でも更に大嫌いな海賊だらけの密室に。

泣きそうだ。
頑張って粋がってみたけど正直既に半泣きだし、っていうか震えが止まらないんですがこれ如何に。

「ご、ごめんね、僕のせいで……」

そう、事の発端はこの愛らしいシロクマさんだ。

・まず人間じゃない。
・会話もできる。
・しかももふもふできるというオプション付き。

つまり、例え雄で海賊だとしても、彼はわたしの理想の友達だった。

「……いいよ。」

人間は大嫌い、男はもっと嫌い、海賊なんて問題外。

それでも、この打たれ弱いともだちの小花の飛ぶような笑顔を見る為なら。
この狭い船に乗ってしまうのもいいかもしれない。



人間不信

(よし、歓迎の宴を‥)
(ベポ、一緒に寝よう!)
(ねェちょっと、あの子話聞いてもくれないんすけど!)

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