短編(過去作)

□満月夜
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任務が終わり。ふと携帯を見ると、新着メールが1件あった。
受信時間は5分前、あいつの住むジャッポーネでは深夜3時のはずだ。
しかも内容が『今電話して平気?』というものだったから、正直焦った。

何かあったのだろうか。
当然隠蔽工作はしているが、俺の仕事柄あいつはいつ狙われてもおかしくない。
スペルビ・スクアーロの恋人。
それだけで、あいつは常に死と隣り合わせなのだ。

逸る鼓動をどうにか落ち着かせて、俺はプライベート用の携帯に唯一登録されている番号を呼び出した。
しばらくコール音が続いて、スピーカーの向こうから戸惑った声が聴こえた。

《‥‥スクアーロ?》

「あ゛ぁ。どうしたぁ、何かあったのかぁ?」

《ん?別に、特にないけど》

「……そうかぁ。それなら良い。」

否定の言葉に、俺は人知れず安堵の溜め息を漏らした。

「お前、なんでこんな時間まで起きてんだぁ?今ジャッポーネは深夜の筈だろぉ。
夜更かしは美容に悪ぃんだろうが。」
《そんなの、今更でしょ。
どう頑張ってもスクアーロの美しさには勝てないよ。》

電話越しの彼女は、カラカラと笑った。

「そうじゃなくてだなぁ……」

少しの間、沈黙が流れた。
だが、居心地が悪くなるような沈黙じゃない。
むしろ、2人で共有するこの静かな時間が、堪らなく愛しかった。


《ねぇ、スクアーロ。》

「ん゛?」


《……月が綺麗だね》


窓を見れば、確かに満月が浮かんでいた。

「あ゛ぁ、そうだなぁ。」

《月の色って、スクアーロの髪と似てる》

「そうかぁ?」

《うん。月見てたらね、……スクアーロに会いたくなっちゃった。》

今夜の彼女はやけに素直だ。
こういう偶に見せる素顔が、可愛らしいし、少し色っぽいと思う。

「それで、電話したかったのかぁ?」

《……うん。ごめん、忙しかった?》

「いや、大丈夫だぁ。
まさか、その為にずっと起きてたのかぁ?」

《まぁ、うん。そうかな。
この時間にならないとイタリアじゃ月見えないかなって。》

確かに、月は空の端に昇り始めたばかりだった。
俺は盛大に溜め息を吐いた。

《スクアーロ?
……ごめん、迷惑だった?》

「何がだぁ?」

《会いたい、とか……あれ、あたし何言ってんの。うわぁ気持ち悪い》

突然覚醒したらしく、彼女はぶつぶつと自分を罵り始めた。
こうなると止まらないのは、日本人故か。

「安心しろ、俺も会いてぇ。」

ふっと言葉が止んで、また沈黙がながれた。
沈黙は、今度はすぐに破られた。

《……ほんと?》

「俺はいつだって、お前に会いたくて堪らねぇぞぉ。今すぐにでも抱きしめてぇ。」

《なにそれ、キザすぎだよ。》

あいつは小さく笑って言った。

「次会ったら骨が鳴るくらいに抱き締めてやるからなぁ。覚悟しとけぇ。」

《えぇ!?それ骨折れるじゃん!》




人恋しきかな 満月夜

(そん時はヴァリアーの医療施設に入院させてやるぜぇ。1ヶ月くらいな)
(それは魅力的だけど……でも全身骨折は嫌かなあ)

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