短編(過去作)

□Echo again
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18年前から手紙がくるなんて、普通なら有り得ないことだ。
が、そいつは着た。



ザンザスが目覚めた―――俺達の眼前に光が再び現れたその日から、10年の時が流れた。
ザンザスが眠りについたあの日からは、もう18年が経っていた。

あの揺りかごの日、俺達は2つの光を失った。


あいつは当時まだ12歳の子供で、幹部唯一の女だった。
だが、強かった。
戦闘能力は言うまでもなく、精神的にも驚く程タフなやつだった。
そして、誰よりも優しかった。優し過ぎた。
弟のように可愛がっていたベルを守って、あいつは消えた。

正確に言えば、まだ辛うじて生きてはいる。
9代目と門外顧問の家光がクーデターを収めてすぐに救命処置を施したため、ぎりぎりの所で命は助かった。
あの時だけは、9代目が穏健派で良かったと思った。
もしザンザスのようなやつだったら、確実にあいつは死んでいた。

だが、あれ以来意識が戻らない。俗に言う、植物人間状態だ。



手紙の差出人は、12歳のあいつだった。
所謂未来郵便というやつで、思い返せば、あいつは昔からそういう夢見がちなところがあったなぁと、確かに思う。

宛名には"30歳の自分へ"とあったが、下に小さく"もしいなかったらヴァリアー幹部のみんなで好きに処理してね"とあったから、とりあえず俺が預かることにした。


手紙の中を見ると、まだ幼く子供らしい言葉が綴られていて。
気付かぬ内に随分と年をくったものだと、もやもやとした気分になった。

ふと、ある部分に目が止まった。
そこだけは何故か言葉遣いも文字もませていて、まるで今30歳になったあいつからのメッセージのようだった。

噛み締めるように、口に出した。


「"人の心は移ろいゆくものというけれど、きっと、18年経っても私の愛する人は変わっていないでしょう。
生まれにも境遇にも、まして組織や上司なんかに左右される想いではないと確信しています。
何があっても私は、あの人の元に帰ってくる。信じていてね、     。"」



ふと顔を上げると、窓に夜空が映り込んでいた。
欠けたところのない満月。18年前から何度となく満ち欠けている。

不意に、首もとに腕が絡まってきた。
今のヴァリアーではまず見かけない、細くしなやかで仄かに丸みを帯びた腕。
そして、俺の全身を包むこの香りは、


「……ただいま、」

少し低くなったが面影の残る涼やかな声で、俺の名前が聴こえた。

「……あ゛ぁ。」


帰ってきた、この響き。


それは間違いなく、あいつのものだった。






Echo again

(髪、伸びたね。すごく綺麗)
(てめぇも、随分美人になったじゃねぇかぁ)
(‥‥照れるじゃんかバカアーロ)

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