短編(過去作)

□牛乳コンツェルト
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「あっ、ねぇちょっと!それあたしの!」

「あ゛ぁ?別に良いじゃねーか。」
「良くない!」

あぁ、また始まった。

「んだよ、うるせーな。大体てめーはいちいち細けーんだよ。しゅうともか。」
「ぷっ……何ソレ、姑の間違い?」
「んあ?あぁ、何かそんなヤツだ。」
「馬鹿じゃないの、馬鹿じゃないの火神!さすがはバ火神。」
「んだとっ!?」

取り留めのない、余りにも幼稚で低レベルな言葉の応酬。
毎日聞かされるこっちの身にもなってほしい。などと考えている内にバトルは更に激化していた。

「てめーにだけはバカ呼ばわりされたくねーな。」
「はあっ!?あたしあんたよりはテストの点良いし!!」
「そこじゃねぇ!人間的にバカだっつってんだよ。」


「2人とも、落ち着いてください。」

「はうっ」
「うぐっ」
ガツンという鈍い音と軽いコツンという音が同時にあがり、2人の声が止んだ。
音の元凶は、僕。

「んー?どしたの黒子?」
「っ痛ーてめー黒子!なんで俺とコイツでこんなに力違ぇんだよ!」
力加減が上手くいったらしく、差程ダメージがなかった彼女は先程までの不機嫌が嘘のように無垢な表情で此方へ振り返った。
対照的に火神くんは露骨に怒りの矛先を僕に向け、睨んでいた。
「喧嘩の内容が精もなかったので止めました。あと、女性に手加減するのは当たり前です。」
彼らの疑問に一つ一つ応えてやる。
「さっすが黒子!紳士だねぇ。バ火神とは大違い。アメリカ帰りなのにレディーファーストも知らないの?」
「るせー、レディーファーストはヨーロッパの文化だ。大体てめーがレディーって柄かよ。」
「何か文句あるわけ?」
またも盛り返してきたじゃれ合いにしか見えない口喧嘩にどうしたものかと思考を巡らせていると、タイミングよく携帯のバイブが鳴った。

「あーあるね!レディー扱いして欲しいならその噛みつき癖どうにかしやがれ。」
「火神くん。」
また口を挟むと、2人はぴったりと息の合った動作で此方へ顔を向けた。
「カントクが呼んでます。今すぐ2年生の教室に来い、だそうです。」
火神くんは軽く舌打ちをして、奪い取っていた牛乳をすぐに飲み干し彼女の机に戻した。
彼女は諦めたように空になった牛乳を見やった。

「行くぞ黒子。」
「……はい。」


本人たちは気付かないけれど、僕だけが分かっている事がある。

「じゃーねー黒子。」
僕だけに手をふる彼女は、これからはあまり火神くんに噛みつかなくなるんだろう。

「授業には間に合うようにします。」
「うん。」
「俺はシカトかよ。」
気にしてない風を装う彼は、これから彼女をレディーとして扱うようになるんだろう。
お互い、噛み付くことでしか気持ちを表現出来ないなんて、なんて滑稽な2人だろう。

でもやはりというか、なんというか。





喧嘩するほど仲が良い

(ってことですね)(はぁ?……冗談じゃねぇよ)



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企画提出作品。火神くんがヒロインの牛乳を強奪しました。

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