短編(過去作)

□君と始まる、春
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こんなにベタな事って、あっても良いのだろうか。


親の転勤。あたしは新しい学校に通うことになり、地図を頼りに学校へ向かっていた。

何気なく曲がり角を曲がると――

どんっ

「うわぇっ!!?」

「あ、すみません。」

真正面から人とぶつかった。
いや、人なのか?それにしてはあまりにも気配がない。
顔を上げてよく見れば、確かに人だった。
それも、あたしがこれから通う事になる誠凛高校の制服を着ている。
――転校初日に転校先の男子とぶつかるって、どんだけベタなんだ。
そんな事が頭をよぎる。
少し違うのは、遅刻ギリギリでないことと、あたしも彼らも普通に歩いていたことだ。

それから、そう、彼は一人ではなかった。

「おい、なにしてんだ黒子。」

あたしがぶつかった少年の隣には、かなりガタイの良い男子がいた。
少年は特に小柄という訳ではないのに、彼と並ぶととても小さく見えてしまう。
威圧感のある雰囲気と少し強面だけど整った顔立ち。一瞬で、目を奪われた。

「……その制服、この辺りの学校じゃないですね。」

「んなこと言う前に立たせてやれよ。」

呆れたようにそう言って、彼は手を差し伸べてきた。
そのときになって漸く、自分がぶつかった衝撃で倒れていたことに気がついた。
あたしはご厚意に甘えることにして、彼の手を取った。
男子の手を握るのは初めての事で少しどぎまぎしてしまう。

「えっと、今日から誠凛高校に転入するので……」

「あぁ、転校生ですか。」
少年は納得した後、少し大袈裟に首を傾げた。

「そっちは学校じゃないですよ?」

「え、」

少年が指差したのはちょうどあたしが向かっていた方向。
どうやらあたしは迷子になっていたらしい。

「はぁー……ついて来いよ。連れてってやる。」

「目的地は一緒ですし、一緒に行きましょう。」

出会った2人が優しい人たちで良かったと安心しつつ、地図を見ながら進んだにも関わらず迷ってしまった自分の不甲斐なさに情けなくなった。







結局彼らには職員室まで案内してもらった。
部活の朝練があるらしく、2人とはそこで別れたのだが。

担任について教室に入ると、そこには更なるベタ展開が待っていた。

「じゃあ君はあのでかい赤い髪のやつの隣に座って。火神、手上げ。」

けだるそうに手の上がった方を見れば、今朝の彼がいた。

彼はあたしの方を見て、不敵にニヤリと笑う。




どくり、ごくり。

何かが始まる予感がした。

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