短編

□リーゼントは縦に揺れる
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あれから、私はリーゼントの彼とよく会うようになった。毎週、同じ曜日、同じ時間帯に同じ路地で。何度か撫でるか?触るか?と誘われたが、やはり少し怖かったのでお断りした。猫たちも、彼に遊んでもらう方が嬉しいだろう。猫たちと戯れる彼を眺めて、少しおしゃべりをする。私にとっては、それで十分楽しかった。彼は見た目とは違って結構穏やかだけど、やっぱり見た目通りやんちゃっぽいところもある。そういうところも可愛く見えて、つまり、私は彼に惹かれていた。
とっぷりと暮れた夜空の月を眺めながら、私はいつもの道を歩いていた。バイトの疲れも、ぼんやり歩くこの時間が癒やしてくれる。彼がいないあの路地は静かで、人恋しさが募るのが常なのだが。今日は、珍しくにゃあにゃあと盛況のようだ。いつかのようにひょいと覗き込めば、案の定彼がいた。こんな時間にいるなんて、珍しい。そう思いながらもいつものように掛けようとした声が、喉から出ることはなかった。
「当真。はやくしろ。」
「へーへー。じゃあな猫助ども。」
誰かに呼ばれた彼は、そのまま反対側へ歩いて行く。月明かりに照らされた彼は、赤いジャージに身を包んでいた。見慣れた立方体マークを、肩に着けて。
ボーダーだったのか。心のどこかがギシリと音を立てた。
ボーダーといえば、私達三門市民にとっては身近なヒーローだ。結構人数は多いらしく、うちの大学にも何人かいたはずだ。だから、彼がボーダーだからどうこうではない。ただ、私は彼のことを何も知らないんだという、その事実に気付いてしまっただけで。
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