小説
□罪と罰
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彼が血の臭いを纏って帰ってくる晩はいつもそうだった。
乱暴に押し倒されて私に酷い言葉で責め立てる。
「知ってて近づくのは得意だろ?」
彼の顔が不気味な笑みで歪む。
私はその顔が怖くて何も言えなくなる。
「初めからそのつもりだろ?」
俺に抱かれるために近づいたんだろ?
そう彼は言う。
だから抱かれろよ。とどんな酷いことをしてもそれは私が望んだことだと。
催眠術のように彼は私に言い聞かせる。
そう言うことでこれから自分のすることを肯定しようとしている様だった。
その間、私には彼が「助けて」と言っているようにしか聞こえなかった。
「助けて助けて助けて助けて」
彼が私を酷く抱く度、助けてが木霊する。
彼を罵ることはいくらでもできる。
あなたはただの人殺しだと。
そんな未来に正義も何もない。
人々の幸せため?
私の幸せを平気で壊したくせに。
彼の幸せも平気で摘み取ったくせに。
あなたは幸せがなんなのかも分かってないじゃない。知らないじゃない。
彼を追い詰めることはいくらでもできる。
けど出来なかった。
あえてそうしなかった。
だってそれが私のーーーーーーー…。