小説
□恋告げる。
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「人斬りに恋なんて。」
そう自嘲気味に飯塚に告げた言葉を抜刀斎は自室の窓から腰を掛けていつものように外を眺めながら反芻していた。
そうだ。そうだったはずだ。
人斬りに想われる女もとんだ迷惑だ。
自分は、普通の人ですらあらざる者だ。
それなのに人として振る舞ってなおも人の様に恋をしている。
もはや、人ですらないかもしれない者なのに……。
抜刀斎は外を眺めているというよりは、裏庭に続く勝手口で話し込んでいる巴と進之介をただただ静かに見つめていた。
最近よく二人がそこで会っているのを見かける。
荷物持ちに一緒に出掛けて喧嘩をしたあの日から俺が呼び出されることはなくなってしまった。
その代わりに巴と進之介の姿を見かけるようになった。
進之介が進んで巴の荷物持ちを手伝っているのだろう。
巴への気持ちがあからさまに態度に出ていた。
ーーー俺にだって分かるくらいに。
なのに巴自身は素知らぬ顔で交わしているから、知ってか知らずかその対応は読めない。
ただ、傍目から見ても二人はひどくお似合いで。
進之介が楽しそうに巴に話しかけている顔はとても明るくて。
…自分には無いものを否が応でも見せつけられているような気持ちがした。
きっと二人には眩しいくらいの太陽の下でも、なにも恐れるものもなく表で堂々と生きていける、自分とは違う世界の人種の様で気後れさえ感じさせた。
自分さえこの気持ちを押し殺せば君は明るいところで幸せになれる?…ーーーー
勝手口でまだ談笑している二人を尻目に抜刀斎は部屋を去った。