小説

□僕のことを知って
1ページ/3ページ


気持ちいい…

適度な弾力があってふかふかで…
良い香りが漂って…




陽が傾いてきた頃、もう季節が移り変わり秋が終わろうとしている今。

窓から差し込むこの陽射しがなにより暖かい…




ぬくぬくして…眠気を誘うこの感じ。


まさにたった今この時こそ、幸せだ〜〜〜〜と口走りたい。




否、否、せめて男らしくありたいと思っている俺としてはそんな子供じみた真似…
最近はそんな情けない姿ばかり晒している気がするけども…



それにしてもこのもっちりとした弾力にほのかに暖かい体温…


至福の時だ〜〜〜〜〜〜



「あなた…あなた…?」


ニヤけて堪らない顔を必死に巴の太ももでうつ伏せて隠していると声をかけられた。


「寝てしまわれましたか?」


そう。
今まさに巴に膝枕をしてもらっていた俺は寝ていたフリをする。


「ん…?巴…なに?」


「起こしてしまいましたか?ごめんなさい。」


「大丈夫だよ。どうした?」


「あの…夕餉の支度でもしようかと…」


「厭だ。」


「え…?でもそろそろ支度しませんと……」


「イヤだ。」


一瞬の無言の後、

「ご飯無しでいいですか?」

「うっ…」





一呼吸置いて巴が少し溜息をついた。
俺は頑として巴の太ももから離れようとしない。


「なにをそんなにムクれているのですか?」


「今日は子どもたちが遊びに来なくてこの時間に巴を一人占めできるのは久しぶりなんだ。

…もう少しこのまま居てくれてもいいじゃないか。」


つい先ほど男らしくありたいと思ったはずなのに俺はなんて子供じみたワガママを言ってるんだろう。




「…時々あなたは子供みたいに聞き分けがなくて困ります。」



見透かされたワガママに
一番言って欲しくない言葉を返された俺はガバッと巴の太ももから起き上がる。



「なっ!そんなことないだろ!?」



「いいえ、そんなことあります。

その度に私が手を焼くんです。

知ってますか?」


ふぅーっと溜息を吐きながら、
ふるふるとかぶりを振る巴の顔は少し呆れていた。


「それは巴が!」


「私が…?なんです?」



「巴が素直じゃないから!」

巴の視線から逃げるように顔を背けて言った。



「私…云いたいことは云ってるつもりです。」


「…本当に話したいことは言わないだろ?」


「……!」


「ほら図星だ」




返事が途絶えた巴に俺はふて寝のように再び巴の膝に寝る。



「いいよ。それでも…
巴が話したいと思った時に巴の話を聞かせてくれれば。」


「あなた…」


「俺はそれでいいよ。いくらでも待つから。

だから…もう少しこのままでいいだろ?」


膝枕の上の方で微かに巴が笑った吐息がした。


「仕様がないですね。じゃあ、もう少しこのまま…あと…」


「ん?」


「あなたの話を聞かせていただけませんか?」


「え?」



「あなたが今までどんな風に生きてきて…育ってきたのか…
なんでも良いんです。

なにを感じて今まで過ごしてきたのか。
聞かせてくださいませんか?」




巴はよく俺の話を聞きたがった。
彼女自身の話は少ないけど日常のなんでもない話でも俺の話は楽しそうに聞いていた。



俺は今まで誰にも話したことのない生い立ちを初めから話して聞かせた。

師匠も知らないだろう話を巴に初めて聞かせた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ