小説

□罪と罰
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「おまえは醜い鬼だ!地獄へ落ちろ!!」


そう俺に投げつけた男は今は地面に這いつくばってギョロリと眼だけを覗かせてもう動かない。


言われ慣れてるはずなのに…

どうして…今夜はこんなに耳から離れない。



そんなことあんたに言われなくても地獄に落ちるよ。




こんな夜は……酷くしたい。

なにもかも忘れるくらいに彼女を抱きたい。



先ほどの言葉を反芻して木霊が鳴り止まないんだ。



……助けて。


苦痛なのか悦楽なのか歪める彼女の顔を思い出すと気味の悪い笑みを浮かべる俺がいた。


傷ついた心とは裏腹にこれからの行為を考えると下半身の熱がうねりを上げる。





部屋に入るなり彼女を押し倒した。
口付けで黙らせて太もも辺りに勢いよく手を突っ込む。


「…!?」


中を弄って腰ひもから下の夜着が左右にはだけた。

しばらく彼女の下半身を指で擦り、もういいだろう。と腰ひもを解き、無理やり彼女の口へ放り込む。


「んっ…!?」


ひもが解けたことで夜着がはだけて上から下まで肌が見える。

露わになった茂みを見て更に両足を左右に開かせて秘部を露わにさせる。


意図が分かったのか彼女は俺の腕を掴んでこれからする行為に怖れた顔をした。

嫌だとかぶりを振って抵抗する。


「痛いのは好きだろ?」


充分な前戯もなしにもう堪らなく怒張した自身をまだ濡れてもない秘部に挿入した。



「んんっっっーーーー!!!!!」


腰ひもを口に咥えたまま入れた衝撃に彼女は仰け反った。


「んっんっんっ…」

滑りもなく無理やり抽送を繰り返し続けているとだんだん愛液が溢れ出してくる。
彼女の声色にも苦痛の中に違う喘ぎが混じり出す。


「ほら…俺に無理やりヤられてるのに…もう身体は素直になってきた…」


俺は言葉で責める。

彼女はその言葉に反応し、キッと俺を睨む。

そんな強気な彼女に更に追い討ちをかけたくて…

彼女の耳元で囁く。




「なぁ…仇に犯されるってどんな気分?」



パシンッッ!



「!?」

思いっきり頬をはたかれた。
繋がっていた身体が離れた。


突然のことに顔を背けたまま俺は呆然とする。


ヒリヒリと打たれた頬が赤くなってゆく。




気づくと彼女が泣いている声がした。


視線を彼女に戻すと、顔を伏せ両手で口を覆い静かに泣いていた。


こんな時にもあなたは声を殺して泣くのか…。


敷き布団の上に涙が零れ落ちていくつも染みになっていく。



初めての彼女の涙に俺は動揺する。


今までもっと酷いことなんていくらでもしてきた。
憎まれて恨まれて赦してもらえなくても構わないむしろもっと憎んでほしい。

こんな俺を誰よりも呪ってほしかった。


なのに彼女はどんなに酷いことをしてもいつも最後には受け入れてくれる。
そんな行為は甘えとなって酷さは増していった。



拒絶されたとしてもそれでいい、そんなもんだと思えたのに彼女はそうじゃなかった。
初めて無理やり抱いた夜も決して涙は見せなかった。


あんなに血を流したのに…あんなに無理やり抱いたのに…



そんな彼女がいま…泣いている。


どうしようか…と迷い腕に触れようとした瞬間、彼女の身体がビクッと震えた。



…身体が俺を拒絶してる?

俺がそんなに怖い?




「乱暴しないから…」



ためらいがちにそっと彼女を抱きしめた。
こんなに優しく触れたのは初めてかもしれない…。



改めて彼女の身体の細さに驚く。



こんなに細かっただろうか…?

いつも触れる時は激しくて…
自分の欲を満たすことでいっぱいで…
ろくに彼女の身体を労わることがなかったから気づかなかった。



こんな細い身体でなにが出来る?


俺に復讐するためだけにこの身体でどれだけの痛みを受け入れてきた?


少しきつく力を入れただけで折れそうな身体で俺になにが出来る?



平気なわけない。

怖くないわけないじゃないか。

初めてだったんだ。



好きな男と結ばれることもなく、
家も家族も投げ出して女一人でこんな人殺しの男に近づいて嬲られる。


初めてが仇の男で…平気なわけないじゃないか。



それなのに……君は……




「ごめん…」



出来るだけ優しく抱きしめて俺は初めて口にした。




泣き疲れて眠ってしまった彼女を静かに布団に寝かせ涙の痕を拭ってやる。


初めて彼女が感情を露わにしてはたかれた頬が熱い。
ヒリヒリと痛むのは頬じゃなく心だ。

心が痛むんだ。




俺は気づくのが遅い。
気付いた時にはもう指の間をすり抜けて失っていくことの方が多かった。


彼女の優しさに気づけずに己の醜さばかり押し付けていた。


どうして…仇の俺にまで君はそんなに……



眠っている彼女に触れることも躊躇い、ひたすら寝顔を眺めていた。

ふと彼女の閉じた目から一筋涙が流れた。



ーーーーー怖い夢でも見てる?



俺は心配になって声を掛けようとした。

「とも……」

はたっと伸ばしかけた手が宙を彷徨う。





「明良さま……ごめんなさい…」




俺は…あの男を一生越えられない。



君を傷つけた報いが俺の罪と罰。
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