小説

□この気持ちはカゲロウ
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君を想う気持ちはまだ透明な陽炎。
どちらへ向かうのかゆらゆら揺らめく。







いつもの朝餉の時間。
彼女が来てからというものいつもの光景にはなかった騒がしさが嫌に目につくようになった。


「巴ちゃん!俺にもご飯よそってくれよ!」
「俺も巴ちゃんがいいな〜」


他にも女中はいるというのに若い志士がやたらと巴にご飯をよそってもらおうとしている。
否、ご飯だけでなく何かしら絡んでいる。


巴は一人、他の女中より忙しなく働いていた。


ご飯を受け取る際もわざと手を触ろうとしつこくしている者も、
屑がついてるよ。と何かにつけ身体を触ろうとする者もいる。


男所帯な宿暮らしだ。
見目美しい若い女子が居たら色めき立つのも分かる。
だが、邪な気持ちで彼女に触ろうとする輩が多すぎる。




騒がしい朝が俺は好きじゃない。
いつもの調子が崩される。




そう感じながら不貞者と巴を目で追っていた。

「その辺でやめとけよ〜緋村がすごい顔で睨んでるぞ〜〜」



突然、俺の隣で同じ光景を眺めていた飯塚さんが声を掛けた。



一瞬でその場にいる全員が俺を見る。



「なっ!睨んでなんかないですよ!!……別に、俺の女じゃないですし。

……お好きにどうぞ」




シーーン。




飯塚さんのせいで全員に俺の女じゃないと公言する羽目になってしまった。






「…さすがにお好きにどうぞはねーだろ」

飯塚は緋村の発言に頭を抱えながらポツリと呟いた。
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