小説

□紅い花咲く、幸せの匂い
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明朝、腰の辺りになにか押し当てられているような違和感を感じて巴は起きた。




「……?」




これって…もしかして…




昨夜も遅くまで愛し合っていた。

夜着を上から軽く羽織っただけの状態で剣心は巴を背後から抱きしめて眠っていた。




朝に固く当たるモノに思い当たる巴は赤面し固まった。




「あ、あなた…」

か細い声で夫に声を掛ける。


「ん…?ともえ…?どうした?」




「あの…腰の辺りになにか固いものが当たって……」


「…!!」




剣心は分身が朝勃ちしていることに気づき慌てて飛び起きた。




「あっ!!!!
…これは……そ、その…
ヤマしい気持ちがあってこうなってるわけじゃなくて…!!!!!!
その……あの……

ごめん。」







しゅーーん。と項垂れる剣心を見て巴が秘かに笑みを零す。




---------耳が垂れた子犬みたい…。




「生理現象だから…すぐ治るから…!」

謝る剣心とは裏腹に正直な身体は変わらずに一部分だけ主張が激しい。




「「………………」」




二人の視線が主張する股間に注目する。







気まずい沈黙が流れ、次第に恥ずかしくなってきた巴は

肌掛け布団を上に上げ、顔を半分隠した。




昨夜も愛されたものを朝の空気でまじまじと見ると居た堪れない。




「あなた……」

うるうるした瞳で見つめられ…

その仕草もまた可愛くて…

まだ外もほの暗くて…




剣心の中でなにかが切れた。




ちゅどーーーーーん。




「巴っっ!!!」

そのまま巴に抱きつき布団へ押し倒す。




「きゃっ!あ、あなた……!朝餉の支度が…!」

「いまは巴が食べたい❤︎」




夜着を軽く羽織っただけの状態の巴には

すぐ脱がされてしまい抵抗も出来ない。




「コレを巴で落ち着かせて?」




只今やってることと朝の爽やかな笑顔で言う剣心の顔は相反しすぎていて、

もうなにがなんだか分からないまま巴は流されて彼を受け入れた。










「じゃ、山に薬草たくさん取ってくるよ!巴は今日はゆっくりしていて?」

満面の笑みで彼は山へ行った。



遠くまで何度も振り返りながら手を振る夫に振り返しポツリ。



「元気だわ…」










「巴ちゃん、愛されとるんやねぇ〜〜」

「え?」

村の奥さまたちにお呼ばれされ、出来た野菜をお裾分け頂いていた時、

村一番のお喋りな奥さんに声を掛けられる。

(いわゆる井戸端会議)




噂好きの女性たちがたちまち巴に群がった。

「きゃあ〜!巴ちゃん、そんなとこに赤い花咲かせて〜〜!!」

「まぁ!ほんまや!!」

「どれどれ?」




「あっ!」

何のことを言われているのか気づいた巴は咄嗟に首筋を手で隠した。




「ほんまやわ〜!首んとこに綺麗な紅い花咲かせて!」

「検心さん激しいんやね〜」




見目麗しい若夫婦の仲が村の人たちは興味津々のようでやっとその話題にありつける!
とばかりに奥さま方のニヤニヤ顔が巴の周りに溢れる。




「なんや今日も巴ちゃんしんどそうやし」

「まだ若いしそりゃ検心さんも辛抱たまらんやろね〜
巴ちゃんとびきりのべっぴんさんやもんね〜〜」

「検心さんてどんな感じ?やっぱり優しいの?」

「毎晩、赤々作りに励んではんの?」

「ちょっとまだお昼やで!」




矢継ぎ早に会話が飛び交うので……騒々しい。

巴は真っ赤になって俯きながら必死に首元を隠すしかない。
オロオロしているのにも気づかず周りはどんどん盛り上がる。




「そんなにくっきりつけるなんて検心さんて……」

「「独占欲強いんやね〜〜」」

と何人かの奥さま方の声が楽しそうに重なった。




ひとしきり盛り上がった後は話題が変わったので巴はホッと安堵したが…

結局のところここの奥さまたちは若くて男前の検心が気になって仕方ないのである。




……あの人が見えるところにつけるなんて珍しい…。

気づかれたのがここだけで良かった…。




本当は…着物で隠れて見えない部分の至るところに赤い花が咲いてるから…




それは乳房や股の間は特に執拗に…

消えそうになれば消える前に新しくつけられる…。何度も…。

毎晩湯を浴びる時、自分の裸体を見て恥ずかしくなるほどに…赤い花が咲いていて…


そんな風に愛された自身の身体を思い出すと顔が火照ったゆでだこ状態のまま戻らない。





「「独占欲強いんやね〜〜」」


……独占欲…………彼が私に…?




それが嬉しいのか苦しいのか切ないのか、

複雑な感情が巴を襲う。




歓喜に潜む狂気のような…裏と表が紙一重で均衡を保っている。

嬉しいのに苦しくて泣きたくなるような…
責められている罪と罰のようにその証だけが赤々と鮮やかに印されていく。




この身体はもう彼のもの。

そう彼が印をつけている。

他には誰にも触れさせたくない。

そういう意図が込められている証。




その事実が……本当はくすぐったくて嬉しいと思っている私がいるなんて。

なんて罪深くて浅ましい…。
地獄に落ちるのは私の方だわ。


だけどーーーー……







子どもたちが駒遊びをしている笑い声が聞こえて、

村の女性たちが旦那さんの愚痴を話しながら洗濯をしていて、

私はそれを聞きながら身体が少し気怠くて……




残暑残る暖かい陽射しの中で[[rb:微睡 > まどろ]]む。







もう少ししたら夕餉の支度をしなくちゃ…

今日は何を作ろう?

まだ大根は残ってたかしら?

たくさんお裾分けしていただいたから色んなおかずが作れそう…

彼はいつものように美味しそうに食べてくれるかしら?





あぁ…………

きっとこれが幸せって人は言うのね。






今日は彼からどんな報告が待ってるだろう?




山でなにがあったとか、

どんな動物に出会ったとか、

薬草がたくさん採れたとか、

こんな珍しい草があったとか……




止めどなく毎日の出来事を楽しそうに話してくれる彼は……





きっと穏やかに笑って帰ってくる夫の姿が浮かんで

……早く会いたいと思った。

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