小説
□恋告げる。
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遠目からは詳しくわからないが、なにやら進之介に食ってかかっている様だった。
揉め事だ。
進之介の方が恰幅も上背もある。
無様に負けるようなことはないだろうが、相手はなんといっても三人がかりだ。
それよりなにより進之介の傍には巴が居る。
案の定、男の一人が巴にも手を出しかけていた。
進之介が前に立って遮っているが、彼女に怖い思いをさせたくない。
そう思った瞬間に身体が動いていた。
突然、巴たちの目の前に抜刀斎は姿を現す。
被っていた編笠を取り、剣の代わりに笠で立ち向かう。剣がなくても普通の男たちより余裕で抜刀斎は強かった。
それは一瞬の出来事だった。
充分、手加減をした上で相手も傷つけずに牽制するだけに留めた。
「緋村さんっ!?」
巴が進之介の後ろで驚いている。
怯んだ三人の男は強すぎる抜刀斎の前で助けを請うように進之介を見つめて震えた。
「ちょ、ちょいと待って〜やぁ!!!!
進さん!話が違うやないか〜!!!!」
え?
同時に抜刀斎と巴は振り返って進之介を見つめた。
「なっ!!名前出すなや!!阿呆!!」
進之介はまさか自分の名前が出されるとは思わなかったらしく、慌てふためいた。
せっかくの男前な顔立ちが台無しだ。
「進之介さん…?」
進之介の隣に居る巴も顔を伺った。
男たちと進之介のやり取りだけで抜刀斎は察した。
要はこの柄の悪い男たちは進之介に雇われただけの様だった。
大方、巴に良いところを見せたくてわざと襲わせた上で自分がさも助けた風に演じたかったのだろう。
その気持ちは男なら分からなくもない。
が、例え茶番だとしても巴はそれを知らないのだ。
本当に襲ってきたと思っただろうし、とても怖かっただろうと思う。
巴を怖がらせた。
それだけで充分許せなかった。
「あ〜ぁ、あと一歩で俺の手柄になるとこやったのに。惜しいなぁ〜。」
先ほどまで慌てふためいていたかと思えば、一変して進之介の雰囲気が変わった。
開き直ったようにぬけぬけと口にする。
「でも巴ちゃん!これは良いとこ見せよう思う男の性なんや!それだけは分かったってぇ〜な!!」
巴の腕を掴みながら言う進之介の顔には反省の色もなく、なおも言い訳じみて食い下がる。
抜刀斎は我慢出来ず、巴の腕を掴んでいる進之介の手を振り払った。
「もう二度と彼女に近づかないでください !」
抜刀斎は進之介を一瞥すると巴に「行こう。」と促した。
「なんや!おまえには関係ないやろ!!」
その言葉に背を向けた抜刀斎の身体がピクリと反応して立ち止まった。
瞬間、巴の腕を掴み自分の方へと引き寄せはっきりと言い放つ。
「俺の女です。」