小説
□恋告げる。
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「俺はなんでここに居るんだ…ひとりで…」
めずらしく抜刀斎は目立つであろう刀も腰に差さず、編笠を目深に被り茶屋の中に居た。
「なにやってんだ…俺…」
巴と進之介が茶屋に入ってくる少し前、抜刀斎は先に店に入ることができた。
二人が腰掛ける席とは死角になる斜め後ろで背中を向けて神経をそばだてる。
微かに声が聞こえるか聞こえないか程度の距離を保っているので会話まではわからない。
それでも上機嫌に話している進之介の声はよく聞こえてきた。
巴はそれに相槌を打っているようだったが自分と居るときよりも声はとても穏やかだった。
ふと気になって目深にかぶった笠からチラリと振り返って見ると巴が進之介にほんの少し微笑んでいるのが見えた。
なんだ…イヤじゃなかったのかよ。
楽しそうじゃないか…。
巴の顔を見た瞬間に抜刀斎は先ほどまで張り詰めていた肩から気が抜けたように感じた。
それでも、茶屋を出た二人の後を追う。
気配を消す特技がこんなところで発揮できるとは人斬りの仕事も初めて役に立つ。
役に立たないけど。
抜刀斎が気づかれないよう追っていた矢先に巴が道の石に躓きよろめいた。
あっーーー。
と思ったと同時に隣の進之介が巴の腕を掴み、腰を引き寄せた。
「大丈夫か?!」
「ええ、ありがとうございます。」
心配そうに気にかける進之介とそれに答える巴の姿を後ろから見ていた抜刀斎は、独り言ちた。
「ほんと……なにやってんだ俺。」
必死に追いかけてしまったけれど、傍目から見ればこれはとても滑稽である。
まるで自分の方が邪魔者じゃないか…。
二人の姿を目の前に、自分のやっている行動が虚しく思えてきた抜刀斎は、もういい、帰ろう。と踵を返そうとしたその時、
巴と進之介の前に柄の悪そうな三人組の男が立ち塞がった。