小説
□恋告げる。
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「緋村さん!あんさんなんでおんの?」
抜刀斎が炊事場の横を通っただけで奥から女将の声が響き渡った。
「居ちゃ駄目ですか…」
俺の顔を見るなり奥から早足で近づいてきた女将の顔は意外そうな驚いた顔をしている。
「そんなこと言うてんのとちゃいます。巴ちゃんの付き添い行ってるんやなかったんかいな?」
「え?」
「昨日、巴ちゃんから相談されてねぇ…」
夕餉が終わり、洗い物もひと段落した頃合いに巴は女将に声を掛けた。
「あの…女将さん。少しお話があるんですけど…いいですか?」
改まって言うし、なんやろか?思たら…。
「進之介さんに…明日お茶しに行かないかと誘われたんですが…行くべきでしょうか?」
なんや、そんなことかいな。
あのどら息子、最近よー見るなと思たら巴ちゃんにホの字かいな。
「あんたが行きたい思うんなら行ったらええし、行きたない思うんなら行かんでよろし。」
きっぱりとした女将の言葉に巴の顔色はますます曇った。
「でも…ここが懇意にしている呉服問屋さんですし…もし断ったりして女将さんにご迷惑をかけたらと思って……」
そんなしょーもない心配、あんたがせんでもええ。
女将はふぅ…と一呼吸置いて、炊事場の片付けをしながら答えていた手を止めて、巴に向き直った。
「あんたのことやから無下に断ることも出来へんねやろうけど…
あんたがそない迷ういうことはあの人とは行きたない、いうことでっしゃろ?」」
「え?」
いつものあんたならイヤなもんにはイヤてはっきり言う性格やろに…。
「緋村さんに相談してみなはれ。」
そう言うと女将は視線を外し、また片付けへと戻った。
「どうして緋村さんなのですか?」
巴は自分でも分からない自分の気持ちが女将には分かるのか不思議で仕方ないし、なぜそこで抜刀斎の名前が出るのか意味が分からない様子で小首を傾げた。
「ここに連れ込んできたのはあの人やねんから…話だけでもしてみなはれ。
答えが出ますやろ。」
「…?…はい。」
理解は出来てない様子だったが女将がそう言うのならと巴は納得した。
「てっきりあんさんが巴ちゃんについてくれてる思てたけど…」
「女将さん!それどこの茶屋ですか?」
「"通円"言うてたかいな…て、ちょっと緋村さん!!」
答えた矢先に抜刀斎の姿はなく、なんと足の速いこと。
もうとうに居なくなった抜刀斎の影を廊下に見て、女将はため息混じりの笑みを溢した。
「なんや世話のかかる…不器用な子らやわ」