小説
□恋告げる。
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襖を開けると部屋の掃除を終えた巴が机の上にある花瓶の花を整えていた。
「そういえば昨日からあるけど…その花どうしたんだ?」
「進之介さんに頂いたんです。この部屋も殺風景ですし、ちょうど良いかと。」
「殺風景で悪かったな…」
相変わらず減らず口を叩き合う関係は変わらない。
喧嘩をしたあの日もしばらく経てば普通に会話をしていた。
「私は気にしてないのにどうしてあなたは気にして距離を取るんですか?」
と言われてしまっては喧嘩をしていたことすら無かったことの様だ。
この人は…ほんとに読めない人だ。
巴が花を整えている姿を抜刀斎は静かに腰を下ろして後ろから眺めていた。
ふと巴がこちらへ振り向き、
「以前は本で山積みだったこの机も…花を飾っただけで華やかになった気がしませんか?」
「あぁ…」
その花が他の男の贈り物でさえなければね。
「俺にはそんな女性が好む様な花は選べないから…あの人は女性の心がよく分かってるんだな…」
ますますそんなものが飾ってある部屋には居たくないと思うと同時に、
自分で言いながらだんだん男としての器量の無さに落ち込んでいく様だった。
「緋村さん…」
「ん?」
振り返ったままの巴はほんの少し畳に視線を落としてから抜刀斎に向き直った。
「また女将さんからお買い物を頼まれているんですけど、一緒に付き合っていただけませんか?」
「え?俺?……あの男が手伝ってくれるんじゃないのか?」
まさかの俺に頼んできてくれたというのに昨日のあの男の顔が頭を過ってつい子供じみたことを言ってしまう。
「?」
小首を傾げた巴は不思議そうに問う。
「…ええ。この頃、進之介さんが手伝ってくれますけど…?どうして知って…」
「俺はあの男良いと思うよ。あんなに手伝ってくれて…なにより明るい人だ。巴さんにはあれだけ明るい人の方がお似合いなんじゃない?」
巴の問いにはわざと答えず、あの男を推している、自分の気持ちとは裏腹の言葉で俺はまくし立ててしまった。
あぁ…この後きっと俺はまた自己嫌悪だ。
「……」
まくし立てる抜刀斎に巴は勢いに押されて目を丸くしたが、一呼吸置いて再び畳に視線を落とした。
「わかりました。」
その一言だけ言うと巴は腰を上げて部屋を出て行こうとする。
え?なにがわかったんだ?あの男のこと考えてみるって事のわかったなのか!?
それ以上、声を掛けられずにいる抜刀斎に襖を開けて出て行こうとした巴が振り返る。
「…あの方に私なんて全く似つかわしくないですよ。」