ハイキュー

□それは突然に
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「名字ー」

「なにー?」

「これ、担任から渡してくれって頼まれた」

「ありがと。パシられて…いや、頼りにされてるね、澤村」

「…前者の方があってる気がするな」

クスクス笑っていると澤村もつられるように笑った

じゃあな、と言って自分の席に戻る澤村にもう一度お礼を言って軽く手を振る

「名前って澤村と仲良いよねー」

一連のやり取りを見ていた沙月が、からかうように言う

「いや…澤村は基本誰とでも仲良いし」

「あー確かにそれはあるかも。みんなに平等って感じだよね」

そうなんだよ

澤村は誰に対しても優しいから、特別な子がいるのかとか、全然わからない

もしいたら…とか、考えようとするだけで泣きそうだったからその話もすぐ終わりにした




**



「あれ…名字?」

その日の放課後、図書室での勉強が終わり帰ろうとすると途中で部活帰りの澤村に声をかけられた

「澤村!部活お疲れさま」

「おー、サンキュ。名字はどうしたんだ?勉強か?」

話しながら、そのまま何と無く並んで歩き出す

「うん、ちょっとね」

「へえ…偉いんだな」

「そんなことないけど…」

やばい

こうやって改めて2人きりになると、緊張して会話が続かない

こんなチャンスなかなかないのに…

「…澤村って、嫌いな人とかいないの?」

話題に困った私は、昼間沙月とした会話を思い出してそんなことを聞いてしまった

「なんだよ、突然」

当然澤村も少し驚いていて、でも質問には答えてくれるようで腕を組んで考えていた

「嫌いなやつかー…特にいないな」

「じゃあ、好きな人は?」

何聞いてるの私!

心の中で悲鳴をあげる

「…本当にどうしたんだ?今日は」

「なんとなく…聞いてみようと思って」

変に思われたかな

第一、いるって言われたらどうするつもりなんだろう

告白もしないで玉砕とか…!

「…いるよ」

「えっ」

頭の中でぐるぐると考えていた私はぴたりと足を止める

「いるよ、好きなやつ」

つられて澤村も立ち止まり、もう一度はっきりと言った

「…そうなんだ」

想像以上にショックを受けている自分に気づく

「澤村は、好きな子の前だとどうなるの?」

声が震えていないか、不自然じゃないか…色々考えながらも、澤村の顔は直視出来ない

「どうって…」

「緊張、したりする?」

私はこうして澤村の隣にいるだけで心臓ばくばくで、普段通りになんて出来ないんだよ

「…してるよ、緊張」

「え?」

「今、すげー緊張してる」

緊張してるって…今?

どういうこと?

その言葉の意味を考える

「名字、こっち全然見ないからわからなかったかもしれないけど…俺、だいぶ隠せてないと思うよ」

その言葉に、思わず顔をあげて澤村と向き合う

「それって…」

思い浮かんだ、一つの可能性

そんなわけない、期待するなと思いつつ、澤村の真剣な表情や少し赤くなった顔を見るとさらに鼓動が速くなった

「…部活が、落ち着いたら」

大好きな、澤村の低めの声

黙って次の言葉を待つ

「ちゃんと言うから、待ってて」

そんな顔で、そんなこと言われたら何も言えない

ずるいよ、澤村


(まだ言うつもりなんてなかったのに)
(気になりすぎて、待てない)


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