ハイキュー

□近づきたくて
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「及川くんっ」

…また来た。よく毎日毎日飽きずに通うもんだな

「名前ちゃんおはよ。今日も可愛いね!」

うるせえクソ川

そんな悪態を心の中で吐きながら、教室までの道のりを足早に歩く

隣のクラスの名字名前は、いつからかこうして及川の元へ通うようになった

及川とよく一緒にいる俺がこいつの名前を覚えるのは自然なことで、多少会話もする関係になっていた

当の及川は…まあ女なら誰にでも優しいやつだから、名字のことをどう思っているかはよくわからない

「岩ちゃんもおはよ!」

「…その呼び方やめろ」

「冷たいなー岩ちゃんは」

俺は今までこんな風に女子と会話することはほとんどなかった

そう考えると、女子の中では名字が一番近い存在なのかもしれない

…ま、だから何ってこともないが

「じゃあ及川くん、またね!…岩ちゃんも!」

付け足すように俺の名前を言う名字に、軽く返事をする

「いや〜モテる男はつらいな〜」

ヘラヘラと笑いながら及川がそんなことを言うから、とりあえず殴っておいた

「痛いよ岩ちゃん!」

半分は八つ当たりだったが、このイライラの正体が何なのか、よくわからない





ある日部室に向かっていると、後ろから誰かに呼び止められた

「岩ちゃん岩ちゃん!」

「…あ?名字か、どうした?」

「これなんだけど…」

珍しく遠慮がちに差し出したのは、小さなお守りだった

なるほど、及川に渡してくれってことか

…まただ。この苛立ちは何だ?何にこんなに腹が立つのか

「もうすぐ試合でしょ?私は応援しか出来ないけど、よかったらこれ…」

「そういうの、人に頼むのはどうかと思うぞ」

「…へ?」

「お前仲良いんだし、普通に渡せるだろ」

こういうのが好きじゃないのは本音だが、及川へのプレゼントを渡してくれと頼まれることは今までもあった

なのに今回だけはどうしても受け取る気になれなかった


「え、ちょ、岩ちゃん。何の話…?」

「だから、及川のこと好きなら直接渡せよ」

自分でも何でここまで腹が立つのかわからない

少なくとも、名字には多少気を許してたってことなのか

それとも…

「…なんだ、そういうことか」

しばらく考え込んでた名字がやっと口を開いた

「岩ちゃん、まず誤解を解くね」

「…誤解?」

「私は及川くんのこと好きじゃありません」

「は…!?」

「ではここで問題です」

その口調は何だと突っ込みたくなったが、それよりまず状況把握の方が先だ

「…これは誰へのプレゼントでしょう?」

この流れだと、及川ではない

てことは…

「…俺、か?」

「正解!…貰ってくれますか?」

改めて差し出されたそれを、半信半疑で受け取る

「…おう、サンキュ」

名字は満足気な表情を浮かべるが、俺はまだイマイチ納得できていない

「毎日及川のところに来てたのは何でだ?」

これが俺の一番気になってたこと

名字は少し目を丸くした後、照れ臭そうな笑みを浮かべた

「いきなり岩ちゃんに話しかける勇気なくて」

「は?」

再び浮かぶ疑問符

「えっと、つまり…」



"私、岩ちゃんが好き"



名字の言葉に、一瞬思考が停止した

「まだまだ無理だと思うけど、いつか振り向いてもらえるように頑張るから!」

覚悟しといてね!と笑顔で言い残して去っていく名字の背中を見ている俺の顔は、誰がどう見ても動揺を隠せていなかったと思う

みるみるうちに顔に熱が集まるのを感じた

…明日から、どんな顔して会えばいいんだ




(及川くんおはよう!…あ、えと、岩ちゃんもおはよ)
(お、おう…)
(…なにお前ら)



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