恋人は専属SP 一柳 昴

□【夢】戻らざる時
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式が終わり、披露宴が行われる会場へ移動する。

温かい陽射しが降りそそぐ中で行われるガーデンパーティーは、みんなの笑顔であふれていた。


私は人の輪を離れ、庭の隅のある大木に身を隠すように体を預ける。


深く息を吐き、今日一日の昴さんの姿を思い出す。




みんなからの祝福の言葉…

キラキラ輝くステンドグラスの下で交わされた誓いのキス…

降りそそぐフラワーシャワー…




どの場面もすべて、昴さんの隣りにいるのは…当然だけど『私』じゃなくて。




当たり前のことなのに、胸が痛い。

涙がこぼれ落ちないように顔を上げれば、そこには一面に淡いピンクが広がっていて…

その大木が、桜の木だと知った。




春の終わりを告げるような風が吹くたび、桜はヒラヒラと花びらを散らせる。

吸い寄せられるようにそっと手を差し出せば、
私の手のひらに…

一枚の花びらが舞い降りた。




そっと手を握り、花びらを手のひらに閉じ込める。

ふと、小学生のときに流行ったジンクスを思い出す。




『舞い散る桜の花びらをキャッチすると、小さな幸せがやってくる』




昴さんがいない私の人生に、幸せなんてあるの?




昴さんは結婚とほぼ同時期に、警部への昇進が決まり、
新しく立ちあげた『一柳班』とともに来月からロンドンに発つ。



当然のことながら、もう私の専属SPではない。

私の警護につくこともないだろう。

おそらく…もう二度と会うことも…





手のひらを開くと、花びらは風にさらわれ、私の手を離れていく。


「小さな幸せすら…逃しちゃったな」


今度は堪えきれなかった涙が頬を伝った。






もし、もう一度彼と巡り会うことができたなら…

そのときは決して、その手を離さない


誰よりももっと、ずっと傍にいられるように…

今度こそきっと…その手を離さないように――



END

あとがきに続きます
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