放課後、校舎裏、手紙。差出人はいつも口喧嘩ばかりしている女の子。

そこから連想するものなんて決まっている。

――果たし合いだ。これは一騎討ちの申し入れだろう。

とうとうこの日が来たか、とカヲルはワイシャツとズボンの隙間に雑誌を仕込む。大丈夫、これは先月号だから例え粉々になったとしても未練はない。
手紙の差出人――アスカの得意技は回し蹴りだ。何の対策もない状態で何度かぶちかまされて死ぬ思いをした事がある。

勝利記念にはここに名前を掘ろう、と校舎裏に立っている木の太い幹を撫でるとカヲルは不敵に笑った。対策は万全だ、くるなら来い。
幾ら彼女の足技が卓越しているとはいえ、腹に仕込んだ雑誌は増刊号だ。確実に衝撃を緩和してくれるだろう。

そんな事を考えていたらとうとうアスカが真剣な表情をしながら歩いてきて、カヲルはにやりと唇を吊り上げる。

「時間通りだね」
「……本当に来るとは思わなかったわ」
「そりゃ来るよ。こんな手紙貰ったらさ、僕は逃げも隠れもしないから安心していいよ」

余裕の表情を浮かべるカヲルをちらりと見やると、何故か頬を染めてアスカは視線を反らした。

あれ、何か自信なさげ?
拍子抜けしつつも逆に有難いか、と思い直した。これならカヲルの勝利は確実だろう。
そう、まずはアスカのキックを増刊号で補強した腹で受ける。そしてやられたと見せ掛けて、そこから一気に……………一気に?
一気に何をすれば勝てるんだろう、とふと思った。凶暴であってもアスカは女子だ。まさか女性に暴力を振るう訳にもいくまい。

「……あのね、私」

(悪口言うとか?いや、無理無理。惣流は暴言のプロだ)

「いっつも喧嘩ばっかりだけど」

(殴るのもまずい。怪我でもさせたら責任とれない)

「ほ、本当はずっと前から……」

(大体不公平だよ。女の子が男に暴力奮ったって問題にならないクセに逆は駄目とかさ)

「……って、ちょっと。渚?」

(ていうか暴力ってどっから暴力?つねるのも暴力に入んの?)

「ちょっと、渚ってば!!」

「デコピンはOKの範囲内かな?」

「はぁ?」

「……あ、ごめん。何?」

考え事してて聞いてなかった、と笑えばアスカの瞳が好戦的な光を宿す。
条件反射のように思わず一歩引いて咄嗟に身構えたものの、予想に反して回し蹴りは食らわなかった。
代わりに、叫ぶようにアスカは言った。

「だからっ!あんたが好きなんだってば!!」
「―――……はぁ?」

何を言ってるんだ、とすっかり戦闘態勢でいたカヲルは怪訝な顔をする。何の作戦だろう。動揺を誘おうとでもいうのか。

「好き?好きって何?」
「な、何って……好きは好きでしょ」
「だからそれを僕に言ってどうしたいのさ」

その手に乗るか、と小馬鹿にした笑みを作ったカヲルに顔を赤くしたアスカは何だか考え込むような仕草をしてみせる。
いつもと違う相手の挙動に首を傾げつつも相変わらず警戒は怠らないままじりじりと距離を詰めようとすれば、ばっと唐突にアスカは顔を上げた。

「だ、だからっ!手を繋いだりどっか出かけたり、き、キスしたりとか!」
「……………は?」
「そんなの確かに付き合いはじめたばっかりじゃ無理だけど、でもいつかはしてもいいかなって思ってるわ!」
「…いや、……うん?えーと、」

恥ずかしそうに首をぶんぶん振るアスカに目をぱちくりさせつつカヲルも漸く気付いた。何かがおかしい、と。
戸惑うカヲルに構わずヒートアップしたアスカは更に続ける。止める隙間もなく。

「でもあんたがどうしてもっていうなら×××くらいなら許してもいいし!だってどうせ最後には××××で×××じゃない?だからそれなら×××××で」
「ごめんちょっとストップ!!」

慌てて制止を懇願した少年にきょとん、とした顔でアスカは首を捻る。
いやいや待て待て果たし合いじゃなかったのかと。それより何で君はそんなに盛り上がっているのかと。そもそも僕を嫌ってたんじゃないの?

色々と聞きたい事はあった。カヲルは何をまず聞けばいいのか一瞬悩んで、一番気になっていた事を聞く事にした。

「…………×××って何?」
「……え?」
「や、だからさ。×××で××××が×××って」

真剣な表情で尋ねるカヲルにアスカはぴたりと停止して、最終的に頬をこれでもかという程赤く染めると涙目で思いっきり右手を振りかぶる。

「女の子に何言わせる気よ!サイッテー、このバカっっ!」
「いッた!!」

ばちーん、と小気味良い音が響いて平手打ちを食らったカヲルは崩れ落ちた。
そんな暴挙に出た女の子は「バカバカバカ!!」と叫びつつ颯爽と走り去り、やがて見えなくなる。
残ったのは綺麗な手形を頬にプレゼントされたカヲルだけだ。

「……平手打ちの対策はしてなかったなぁ」

ごつごつと、腹に当たる雑誌を渇いた笑みで撫でつつぼやく。
結局一体何だったんだろう、と。
ただ、ありとあらゆる面で女の子という生き物は理解不能だ。そう学習した。




***


061.七転八倒


25の日、貞版おめでとう文でした。せっかくだからアスカヲを意識してみた、押せ押せアスカさん。
長文のシリアスさにのうみそぱーん!てなって書いてた筈です


160205.

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