吸血鬼N
□第3章屋敷へ、そして
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3屋敷へ、そして
「あの、お客さん。もしかしたら柏ファイヤーズの輪土直哉選手じゃないですか?」
「あっ、はい。そうです」
「やっぱり!今日は久しぶりに里帰りですか?」
「あっ、帰ってきたというか今、療養中で」
「療養?てことは、怪我でもされたんですか?」
「はい。ちょうど今から2ヶ月程前でしたかね。試合中に相手選手と競り合いになり、ぶつかって脳震盪を起こしたんですよ」
「脳震盪・・・それは大変でしたね」
男とドライバーが話をしている横で、少女Rは心配そうに男を見つめている。
少女Rの視線に気づいたのか、男は顔を向けた。
「・・・梨羅?」
「・・・直哉、脳震盪って」
「ああ、だいじだよ。今は治ったから」
「よかった。ていうかね、私、実は柏ファイヤーズファンなのだけれど、その脳震盪を起こしたこと、前から知ってた」
「え・・・?」
「そのときは、『この人誰だろう?』ぐらいで見てた。でもうっすらと名前を思い出したの。『わど なおや』って」
「梨羅・・・」
「あなたの本名でしょう?」
「そうだ。俺の本名は輪土直哉」
男はそう言う。
「俺のこと、前から知ってたのか?」
「そういうことになるわね。はっきりとはわからなかったけれど」
「脳震盪を起こしたことも知ってたのか?」
「ええ。私、その時、何故だか知らないけれど、切なくなって・・・。涙を流してしまった。何故だか他人事に思えなくて・・・」
「梨羅・・・その時から俺のこと心配してたんだな」
「ええ」
2人は見つめ合う。
そんな2人をバックミラーで気にしてたのか、ドライバーは
「あの、輪土選手とそちらのお連れの女性の方は恋人でいらっしゃいますか?」
と聞いてきた。
「えっ、あっ、えっと・・・」
少女Rが戸惑っていると男が
「はい、恋人です」
と答えた。
「そうだろう?」
と低音ボイスで少女Rに耳打ちする男。
男のその一言に、少女Rの胸が大きく高鳴った。