戦地勤務

□第三話 気合いでどうにもならないことだってある
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「太郎ォォォォォ!!もっと気張れェェェェ!!」

「るっせェェェェ!!やってるわァァァァ!!」




第三話気合いでどうにもならないことだってある



ギギギと柱が動く音が耳に届く。
先程よりも上へと上がった瓦礫の山に少しばかりか歓喜した。

「あとは一気に…!」
「うごぉぉぉぉお!!!!手がちぎれるぅぅぅぅ!!!!」
「頑張れ俺ェェェェ!!」

それでもまだ動かないこの家だったモノは、今女の人を下敷きにし、俺たちの手が傷だらけになっても尚、音がするばかりで微動だにしない。
不意に周りを見渡すと、既に巨人が町の中を闊歩していた。

「待っててねお姉さん今出してあげるからァァァ!!」
「あとちょっと!あとちょっとだから!」

「っ、いいの!貴方達も早く逃げて!じゃないと…っ」

「救える命を救わずして何になる!」
「俺たちはそこまで非情な人間じゃないね!」

声を荒げぐっと腕に力を入れる。

血管すら浮き出、軋む腕を痛めつける。
手がどれほど傷んでも寧ろもっと痛めと、元々無かったドM根性が顔を出す。


「母さん!!」

自分がドMだとそろそろ受け入れようとしていたら、後ろから呼び声が聞こえてきた。
どうやら、その声は我々へと向けたものらしい。具体的には、この女性へと向けたものだが。

複数の足音が確実にこちらへと向かっている。


「母さん!!」

俺の隣に男の子、銀時の隣に女の子が来る。
その子供は俺たちを見てから、女性へと目を向けた。

「母さん…?」

「君らも手伝って!!早く!!」

状況を理解したのか、直ぐ柱を掴み俺たちと同じ動作をし始める。

「行くぞ!!せーの!!」
「うがァァァァァァァァ!!」
「ぐぬぬぬぬぬぬ!!」

尚も持ち上げていると、子供たちは町を闊歩する複数の巨人に気付きより一層力をふるった。

「ミカサ急げ!!」
「わかってる!!」

「少年少女!もっかいせーので行くぞ!!」
「うん!!」
「せェェェェのォォォォ!!!!」


先程とは打って変わってミシミシと柱が大きな音を立てる。
この分なら後少しで助けられそうだ。


―だが、いつここに巨人が来ても可笑しくはない状況。もし、来たら…もし、今来てしまったら……


「…………、」

「…太郎」
「あと、もう少しなんだ。あと、ちょっと!来てくれるなよ…っ」


恐らくは、銀時も察しているんだろう。

そして、この女性でさえも。


「エレン!!ミカサを連れて逃げなさい!!貴方達も!!早く!!」


発した叫び声ともとれるその言葉は、口から出すのにどんなに勇気がいっただろう。
恐怖で心を占めながらも、自分よりも子供の命を優先したこの女性は。

「母さんの足は瓦礫に潰されてここから出れたとしても走れない…わかるだろ?」
「オレが担いで走るよ!!」

「どうしていつも母さんの言うこと聞かないの!最期くらい言うこと聞いてよ!!ミカサ!!」
「やだ…いやだ…!」

会話を聞き憂いながらも諦めず、指がちぎれんばかりに力を込めていると、ふと視線を感じた。
位置からして、今現在救助しようとしている女性からだ。


「ここまでしてくれたのに心苦しいのだけれど…貴方達にお願いがあるの。」
「餓鬼共を担いで逃げるなんざしねーぞ。」
「今日日の餓鬼は元気でよく食うからな。それにこんな手じゃ担げやしねー。」

キッパリ断ると、女性は下を向き流していた涙をまた溢れさせる。ポタリポタリと落ちたその涙は、木材の色を濃くしていった。

「お姉さん顔上げて。大丈夫、コイツらを見殺しになんてしないから。」

少しだけ、ほんの少しだけ、女性が微笑みを返してくれたような気がした。


すると突然、先程まで聞こえていたのとは比じゃない程の足音が近くで響いた。

柱を上げる力を緩めずして、心のどこかで来てしまったと落胆する。
勿論、気付いたのは俺だけじゃない。
皆の顔が青くなっていく。

「クソっ…。」


ゆっくりと近付く足音。だが、それに混ざって機械音が耳に届いた。

「あっ!?なに!?」

「ハンネスさん!!待って!!戦ってはダメ!!」
「見くびってもらっちゃ困るぜカルラ!!オレはこの巨人をぶっ殺してきっちり全員助ける!!」
「阿呆か!!止めとけ!!」

兵士の格好をした金髪の男性は徐に刃を出し、銀時や女性の静止も聞かず巨人へと突っ走っていった。

「待てってーの!!阿呆!!」

声を荒げストップをかけると
…不意に男性が立ち止まった。

…あれは…。


「お、おい!?ハンネスさん!?何やってんだよ!!母さんがまだっ」
「お前達も逃げろ!!」
「はァ!?」

刃を戻し、こちらに駆けてきては少年少女を担ぎ上げ、避難しろと言う彼。
ちょっと自分勝手や過ぎませんか。


「チッ太郎!」
「あっ!?」
「俺たちも行くぞ!!」
「はァ!?お前までなに言っちゃってんの!?馬鹿じゃねーの!?」
「馬鹿はテメーだ!!」

そう言った銀時は柱から手を放し、代わりに俺の襟首を掴んで引っ張り出した。
いきなりで対応出来ず、俺まで柱から手を放してしまう。

「お前!!」
「逃げるぞ!!」
「見捨てんのかよ!?」
「今の状況を考えろ!木刀も無ければ刀もない。ましてやこんなボロボロの腕に、奴らの詳細なんて何一つ知らねー。明らかこっちが不利なのは分かりきってんだろ。」


銀時の説得に反論したくても正論で。
行き場の無いこの感情を、どう行動で示したらいいか分からなくて。

女性へと、目を向けた。




「なんで笑えるんだよ…。」




「…行くぞ。」

そのまま走り出し、最後に見たのは女性が巨人の腹へと無情にも飲み込まれていくところだった。



第三話気合いでどうにもならないことだってある


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