戦地勤務
□第二話 喧嘩をする時は全力で
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「で、どうだった?」
「いや、どうだった?じゃねーから。まだ行ってないから。お前の平手打ちでここよりも花が咲いてた場所に一瞬行ったけどそれを聞いてんの?」
「1回、川の向こう側へ視察にでも行ってみたらいいんじゃないかな」
「それ1回じゃすまねェェェ!!行ったら最後帰ってこれねーじゃねぇか!!行くじゃなくて逝くだからそれ!!」
「いいからさっさと逝ってらっしゃァァァァァァァァい!!」
「ごべるばっ!!」
第二話 喧嘩をする時は全力で
木材にレンガ、それに石造りの中世ヨーロッパ風の町並みがずっと奥まで続いている。
そこを闊歩している、恐らくはここの住人の格好も自分たちが住んでいるところでは一度も見たことがない。
「おーい、マジでどこだここ。」
「この身形じゃ出るに出れねーな。」
建物と建物の間からひょっこり顔を出し外を伺う。
たまにチラッと目が合うが、即逸らされるか、怪しそーにこちらを逆に見られるので、そろそろ警察を呼ばれてもおかしくはない。
「どうする?」
「まぁ、なるようになれ。じゃね?でもとりあえずは、この格好をどうにかしよう。」
そう言い、来た道を戻る。
それを眉間に皺を寄せながらも後をついて来る元戦友は、面倒臭そうに声をあげた。
これから俺が何をしようとしたのが分かったのだろう。
「別に俺はこのままでもいいと思う。」
「阿呆か。これじゃ目立ってしょうがねーだろ。帰れるもんも帰れなくなるぞ。」
「…帰れるか帰れねーかすら分かんねーのにか。」
銀時の声に、溜め息を吐くと同時に後ろを向く。
そこには、やはり数秒前と変わらずの仏頂面がいた。
それを見て、また1つ息を吐く。
「どっちにしろ、面倒事はご免だろ。」
「オメーがする事も十分面倒事だがな。」
「バレなきゃいい。追い剥ぎ最高。」
「警察がなんつーこと言ってんだ!」
呆れたのか息を吐き頭をかいている。
とてつもなく面倒臭そうだ。
だが、これ以上グチグチ言わないから一応は肯定の意だろう。これでお前も犯罪者の仲間入り!と言ったら頭を叩かれたが。
よっしゃと、意気込んで前を向きまた歩を進めようと足を出すと、またも後ろから気だる気な声が聞こえてきた。
「つーか、上着脱げばよくね?」
「…………。」
全体が紅く染まり始めた夕刻。
町には、労働中の者及び帰宅者やまだまだ遊び足りないだろう子供たちであふれかえっていた。
昼間よりも幾分か活気は薄れていたが、人の量では夕刻の方が勝っている。
「あーー…日が沈むよーう…お家がないよーう…」
「結局、帰れず終いだな。ここがどういうところかは分かったけど。」
「どうやら、別の世界にこんにちはしちゃったみたいだな。」
「そんな挨拶程度ならまだよかったわ。この状況を打破しようにも出来ないからね。帰れるヒントなんてなんにも無いからね。超難関クイズだからね。」
「IQ5のお前には難しいもんな。」
「5って何だァァァ!!低すぎだろ!猿以下じゃねーか!ゴリラ以下じゃねーか!」
「いや、IQに猿もゴリラもねーから。」
結局、帰る手掛かりも掴めず今晩泊まる寝床も見つけられず、途方に暮れる俺たち。
目の前で流れる川はこんなにも澄んでいて綺麗なのに、俺たちの心はどす黒く今にも吸い込んでしまいそーなブラックホールと化している。
ふと、ポケットに入っている硬いものの存在に気がつく。
一応は確認しておこうと、手を突っ込みそれを取り出した。
「おっおい!それ!」
「んー…」
「お前ケータイ持ってんじゃねーか!文明の利器!お前何でもっと早く言わねーんだよ!それを使わずしていつ使う!おい、何やってんだ早くどこでもいいから電話かけろ!」
「いやぁ…この場合、お約束展開があると思って。」
「ああ!?」
「それに、ここはそれ程文明が発達しているとは思えないし。」
「…つまり」
「こーいうことです。」
パカっと携帯画面を見せる。そこには、やはりというか、圏外の文字が。
「お前…ないわ」
「……まぁ、ショックだよな。どこからか希望が打ち砕かれた音が聞こえたよ。」
「お前ないよそれは。土方の写真てお前…」
「そっちィィィィィィィ!?待受画面の話はどーでもいいんだよ!つーか、えっ?これ設定したの誰だァァァ!!」
いつの間にィィィと頭を抱えいつからこの待ち受けになったかと記憶を辿ると、視界に軽蔑の目を向けている銀時が映る。
「お前ってそっちの趣味だったの?」
「だからちげーって言ってんだろ!!そっちの趣味なんて皆無だから!!ちょ、テメー自分の体抱え込むな!!手なんか出すわけ無いだろお前如きに!!」
「あ゛!?如きって何だコルァァァ!!銀さんの体はなァ!お前が思ってる以上に魅惑的且つ高貴な代物なんだよ!お前が触れていい程安かねーんだ!!」
「そーだよね!!誰にも触れられない程魅力も無ければそこらへんにいるオッサンの香りがするもんね!!やーい!!オッサンー!!二十代のオッサンー!!」
「んだとコルァァァァァァ!!!!」
普段通りに言い争って心の均衡を保とうとしていると、なんだなんだと人が集まってきた。
「あ、やべ」
「おい!テメーら!俺たちゃ見世物じゃねーんだ!!とっととお家に帰って母ちゃんの乳でもしゃぶってな!!」
「あっちょ、お前!」
どっかで聞いた台詞だなと心の中で思っていると、銀時のその言葉が野郎共の怒りに触れたのか、見ていた男衆が声を荒げ始め、こっちに近付いてきた。
それに対抗し更に煽る銀時は本物の馬鹿だ。馬鹿中の馬鹿。
「あーあ、もう自分から面倒事に突っ込んでんじゃん。嫌って言ってなかったっけ。」
「うるせー!こーでもしなきゃやってられねーんだよ!」
「八つ当たりじゃねーかァァァ!!」
シカトされた男衆は、更に怒りのボルテージが上がったのか、一気に殴りかかろうと足を踏み出し、それに気付いた目の前の銀時は構えを取り男の群れへと走り出す。
それを呆れ目で眺める俺もその殴り合いに加勢しなきゃなんないのかと体勢を整えながらも考える。
「メンドクセ」
すると、銀時が一人目の男性の顔を殴った次の瞬間、耳を劈く様な音がしたかと思えば地面へ向け一つの大きな稲妻が走った。
そのあまりにも大きな、爆発とも思える地響きは町全体へと渡り、大人すら立っていられない程。
勿論、俺や銀時、さっきまで怒り狂っていた男衆もぐらつき、しまいには尻餅をつく人までいた。
「な、なんだ」
「爆発か?」
「銀時〜、爆発すんなってあれほど言っただろ〜。」
「いや、俺じゃねーから!!人間が爆発するなんて初めて聞いたわ!!つーか、もし俺が爆発したらお前にも被害来てるからね!?」
何がなんだか分からないのは住民も同じな様で、焦りが見え隠れする。
爆発源を探ると、壁の向こう側で煙が上がっているのが見えた。
「壁の…外って」
「巨人か?」
「え。巨人が爆発したの?」
「いやだってほら、手が見えるよ。自分が爆発しちゃって驚いちゃったんだね。」
「いや、あれふらついて壁に手掛けてるわけじゃないから。あー驚いちゃったなぁもうじゃないから。」
長年の戦での勘が働き、ここは危険だと頭に警告音が響く。
銀時と顔を合わせ、とりあえずは、急いで反対の壁へと同時に走り出す。
これはもう、喧嘩どころの騒ぎじゃない。
「確かあっちには、うぉー…うぉー…」
「ウォールローゼ!」
「そう!そのウォールナットまで行けば船が出てるはずだ!」
「ウォールナットって何!ローゼな!ローゼ!」
まだ周りが静かに壁側を見ているので、呑気なもんだなと走りながら先程まで見ていた後ろの壁へと顔を向ける。
「はっ!うわゎゎわゎわ!」
「あんっ?何?何やってんのお前?ちゃんと前見て走らねーとぶつかるぞ。」
「いや、だって!」
銀時にも後ろを見ろと指示すると、仕方が無い様な面倒臭そうな素振りで後ろを振り向く。
「うぉおお!?何だアレ!!何かもう剥き出してんだけど!!」
「巨人って皆あんなバカでかくて皮膚あんな感じなの!?」
「おい!とりあえずは!」
「マジ逃げないとえらい目に会うよコレェェェェ!!」
長年の勘は当たりで、自分らが思ってる以上に凄まじいことが起こってると、後ろから飛んできた大岩にぶつかり潰れた餓鬼を見てそう思った。
第二話 喧嘩をする時は全力で