陸の夢

□忘れられない、あの日の事
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百合の身請け合戦。才華はその光景に頭を抱えた。
「……あちゃあ。あれ、百合さん絶対正気じゃありませんね……。何やってるんでしょう、あの人は。我が叔父ながら情けない……」
「え、えっと、あの……初恋ですから……皆馬鹿になるものなんですよ」
「ほほう。じゃあなんですか、初恋なら好きな女の子に薬を盛って、本人の意識が無い間に籍を入れてしまっても構わないと?」
「………………すみません」
流石の悠舜にも擁護は不可能だった。才華は目を細めた。
「まあ百合さんと黎深叔父様ですからね。そうでもしないと一生結婚なんてしないでしょうし、百合さんならきっと許容してくれるでしょう。百合さんの事情も片付いて、父様と玖琅叔父様も一安心。懸念は鳳珠さんの気持ちだけですね」
飛翔が嫌そうに呟いた。
「なんだよ事情って。紅家関係の何かか?」
「いえいえ、そうではありませんよ。百合さん自身の事情で……まあ手っ取り早く言うと、紅家じゃないと色々危険な目に遭うということです」
「……マジか」
飛翔は目を瞬いた。才華がチラリと物陰を見やる。
「それは確かに、鳳珠さんと結婚した方が幸せになれるのかもしれません。でもね、黎深叔父様との結婚でも不幸になるとは限らないんですよ。だって百合さんはずっとあの人の側付きをやっていたんですから。……だから心配は要りませんよ、鳳珠さん」
1拍、2拍、3拍。才華が見ていた物陰から、鳳珠が出てきた。その体が、グラリと傾ぐ。才華はサッと手を出して鳳珠を支えた。
「おっと。大丈夫ですか? 失恋は辛いかもしれませんけど、あまり気を落とさないでくださいね。黎深叔父様と違って、鳳珠さんは素晴らしい内面をお持ちなんですから、これから先にいくらだって期待できます。……ね?」
「……ああ……ありがとう、才華……」
鳳珠はそっと才華にもたれた。才華はそんな鳳珠の背を撫でてやっている。悠舜と飛翔はその光景を見て、「まるで恋人同士のようだ」と思ったのだった。
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