陸の夢

□家族との日々は続いて
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二日後。才華は邵可に連れられて、生母の墓参りに来ていた。とはいえ一度も会ったことの無い人間を母とは思えず、才華は無感情な目で墓を見た。
「……うーん……」
難しい顔で首を傾げた才華に、邵可は優しく微笑んだ。
「君が悩む気持ちも分かるよ。とりあえず今は、そこに本当のお母さんが居る事だけ覚えておきなさい」
「……本当の『お母さん』ねえ……。『昔』の事まで含めると、私、『お母さん』が三人居ることになるわね。『お父さん』は未だに一人だけなのに。この差は何?」
「……私が居るじゃないか。他の二人の分までちゃんと『お父さん』として君を育ててあげるよ」
「………………うん。ありがとう、父様」
そんな話をしながら墓参りを終わらせる。帰り道、才華は邵可に連れられて、本家の厩に寄った。
「令──君の実のお母さんといつも一緒だった赤兎馬がいてね。名前はなんだったかな……。そうだ、確か赫煌。名馬なんだけど気性が荒くてねえ、乗りこなせるのは令くらいなものだったよ」
「……へ、へえ」
才華はなんと反応すべきか迷った。
(赤兎馬って確か創作上にしか存在しない種類じゃなかったっけ……?)
邵可の後についてテクテクと歩いていく。そしてその馬の見事な赤毛──本当に真っ赤な毛並みだった──を見たとき、才華は自分が異世界に転生した事を実感した。
「……凄い、これが赤兎馬なんだ。……ちょっとだけ」
「あ、危ないよ才華!」
そーっと馬の背に手を伸ばすと、邵可に止められた。
「気性が荒いって話したばかりじゃないか。怪我でもしたらどうするんだい」
「……ご、ごめんなさい」
大人に叱られるのは久々で、才華は何度か瞬きした。渋々手を引っ込める。赫煌はそんな人間など関係無いとばかりに、飼い葉に顔を突っ込んだ。


それから、しばらくして。奇跡は起きた。才華は揺りかごを覗きこんでみる。血も繋がっていない.......わけではないが、妹というには少しばかり遠い。でもなんだか可愛いような気がする。揺りかごの中の娘は笑う。邪気のない笑顔だ。作り物ではない、本物の。きっとこの子は可愛がられる。自分とは違う。それでも良い。 そう思えたから、自分も可愛がることにした。秀麗。私の、可愛い、妹。そう呼びかけると、揺りかごの子供は無邪気に笑んだ。
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