保健室日誌
□その痛みだって愛おしい。
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「まぁでも…まだ痛むようなら、また診てやるよ。男は嫌いだが、可愛い後輩は別だからな」
「…っ!」
どうしてそう、私が喜ぶ事ばかり言うのだろう、この人は。
私の気持ちなんて、知らないくせに。
「司? 顔赤いぞ、熱でもあるのか?」
「っ! いっ、いえっ! 大丈夫です…っ!」
首を傾げた犬塚先生が顔を近づけてきたから、思わず身を引いて立ち上がった。
「あ…っえーと……っ治療、ありがとうございました…っ!」
「あ…っおい、司!?」
とりあえず頭を下げて礼を言い、彼の返事も聞かずに保健室を飛び出した。
幸い校舎内に残っている生徒はおらず、廊下を走って校舎裏まで行っても、気に留める人はいなかった。
「はぁ…っは……っ〜〜〜!」
声にならない声をあげて、壁に手をついた。
突き指した指は、鼓動が脈打つ度にじんじんと痛む。
深呼吸してから身を起こして、その指をもう片方の手で包み込んだ。
『まだ痛むようなら、また診てやるよ』
犬塚先生に言われた一言が、脳裏に蘇る。
「……治らなきゃ、いいのに……」
呟いた声は震えて、熱をもった呼吸に溶けた。
貴方に触れられる口実になるのなら、
その痛みだって愛おしい。
END.