保健室日誌

□その痛みだって愛おしい。
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「なんでお前はそう、変なところで注意力が散漫なんだよ」

少し腫れてしまった私の指に湿布を貼りながら、犬塚先生は溜め息をついた。
御子柴くんに用事があって、昼休みに体育館に行ったところ、飛んできたバスケットボールでもろに突き指してしまった。慣れていないくせに、キャッチなんてしようとするものじゃない。

「お前、これで字書けるのかよ。明日も授業、あるだろ?」
「まぁ…多少無理をすれば……」
「無理した結果がこれだろうが」

なんで昼休みの時点で来なかった、とテープを若干きつく巻かれた。

「……痛いです」
「当たり前だろ、そんだけ放置してたんだから」

また溜め息をつきながら治療用具を片づけていく犬塚先生を眺めて、小さく息をつく。
窓から射し込む夕日を背景に片づけをする犬塚先生は、普段より綺麗に見えて、思わず目を逸らした。

「…? どうした、司?」
「いえ…何も……」

そう、何もない。何も思ってなどいない。
そう自分に言い聞かせて、視線を上げる。
こちらを見た犬塚先生とばっちり目が合ってしまって、ドクンと一回、心臓が跳ねた。

「何だよ。まだどこか痛いところがあるのか?」
「い、いえ…ありません……」

首を傾げた犬塚先生から再び目を逸らして、煩い鼓動を治めようと拳を握る。突き指した指が痛んだけれど、別に構わなかった。
なのに――

「馬鹿、そんな力入れんじゃねえよ。安静にしとけ」

私の手首を掴んだ犬塚先生が、そのままその手を少し上げた。たいした力はなかったけれど、されるがままに手を上げる。

「心臓より上の位置にしておくと、痛みがマシになるんだ。それくらい知ってるだろ?」

こつ、と小突かれた額に手をあてて、小さく返事をした。

「そう、ですね……」
「ったく、それ以上悪化させんじゃねーよ。俺は男の手当てなんざ、本当はしたかねーんだからな」

苦笑して、知ってます、と返せば、少しの間の後、犬塚先生は優しく微笑んで言った。
 
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