お話し
□菖蒲に誓う
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鯉のぼりがたなびく、真っ青な空の下。
俺は、万事屋のスクーターの後ろに乗り風を感じている。
今日は子どもの日、そして俺の誕生日。
今朝、近藤さんに誕生日くらい休めと非番を言い渡され、誕生日だからと言って何もすることの無い俺の足は自然と恋人の家へ向かっていた。
万事屋を尋ねれば、いきなり来た俺に驚く間抜け面。その後に嬉しそうに笑う顔が嬉しい。
日付が変わった時、電話で一番におめでとうは言われていたから、その礼を誕生日だからと素直に「嬉しかった、ありがとう。」と伝えたら珍しく真っ赤にしていた。
その後、子供たちにも祝われ酢昆布とタバコを貰った。
そして万事屋に連れていきたい所があると言われ、されるがままスクーターに乗せられ今に至る。
走り続けて、30分ほどが経っただろうか。
五月の清々しい空気を胸いっぱいに吸い込めば目の前でスクーターを走らす男の仄かな甘い体臭が香る。1人、気恥ずかしさに頬を染めた。
すると、感じていた風が止んだ。どうやら目的地に着いたらしい。
「降りて、土方。」
案の定降りろと言われたので素直に従う。
万事屋もスクーターから降りて被っていたメットを外す。現れた銀髪が日の光を優しく浴びてきらきらと瞬いた。
少しばかり見とれていたら、万事屋が手を差し出してきた。その意味を察して恥ずかしさに万事屋の顔を見れないまま、素直にその手をとった。
そんな俺に満足そうに目を細めた万事屋は、そっと体を寄せてきた。それに応えるように俺からも体を寄せれば万事屋はふっと笑み、耳元に口を寄せてくる。
そして優しく、
「土方、目、つぶってくれる?」
そう、囁いてきた。
耳にかかる吐息にわずかに体を震わせながら尋ねる。