★連載★

□world&world
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「....いい匂い。」


ベッドに横になっていたリズナは、パンが焼けるような香ばしい匂いで目が覚めた。

のろのろと起き上がると、身体のあちこちが軋んで痛む事に気付く。
テオム崩落からまだ2日しか経っていない。あの時の戦闘の痛みだろう。
リズナにとっては、今までにない不慣れな闘いだった。
一人で、常に緊迫状態で、生身の人間相手に命を懸けて剣を振るい続けたのだから。


タルタロスに乗ってギルドに加入する事を決め、強くなると誓った。
昨日はジェイドに連れられて船内の説明を受けながら歩き回り、他のギルドメンバーにも挨拶をした。

(そういえば...あの青い髪の人に、会わなかったな。)

テオムで放心していたリズナを見つけてくれた彼には、昨日は会えなかった。
ジェイド曰く、視察で違う村へ行っている者や、研究で篭る者、道具や食料調達に出ている者もいるから
そのうち会えるだろうという事だった。

(...少し回復してる。まだ痛いけど...もうかなり動けそうだ。)
自分の肩をぐるぐる回して、身体の回復具合を確認する。
軽くストレッチをしてから、ティアが用意してくれた服に着替えた。

胸にはきつくさらしを巻き、花の染料で鮮やかなオレンジに染まったサロペットを着る。
指ぬきの皮のグローブに、同じく皮のブーツ。
とても身軽に動けそうな装備で、リズナは少し満足そうにしてから
部屋を出た。












「あ、リズナ。」

「おはよう、リズナ。体は、もうだいぶ回復したか?」


食堂に着くと、ソフィとアスベルに声をかけられた。
小さなソフィは、パタパタと駆け寄って来て、じっとリズナを見つめる。

「おはよう、二人共。だいぶ楽になったよ。ソフィ、昨日お花ありがとうね。」


そう言ってソフィの頭を撫でる。

昨日、挨拶をした時、ソフィは甲板にある小さな花壇で花の世話をしていた。
リズナが相当参っているように見えたのだろう、困ったような表情で花を一輪くれたのだ。
「お花を見ると元気が出るよ」と言って。


「また新しい花が咲いたらリズナにあげるね。」

ソフィはそう言って嬉しそうに微笑んでから、アスベルの元へ走って行った。
食堂の長テーブルについて朝食をとっているティアを見つけ、リズナは向かい側に座った。

「ティア、色々ありがとう。」

「おはよう。朝の挨拶が先でしょう、リズナ。」

「あぁ、ごめん。おはよう。」


ティアは優しく微笑み、リズナは照れくさそうに笑った。

「傷、綺麗に消えたよ。治癒の魔法は初めて見たけど、すごいな。」

「私のは、魔法ではなくて譜術というものなの。...少し、落ち着いた?」

「うん、お陰様で。もう動けるから、ジェイドに言ってこようと思ってたんだ。何かできる事がないか。」

すると背後から肩を叩かれた。
振り向くと、アニスが風呂敷に包まれた大きな包を抱えていた。

「あるよー、やる事!とりあえずさ、これ!お弁当だから!研究室まで運んでほしいなー♡」

ツインテールが似合う褐色肌の元気な女の子だ。ジェイドを「大佐」と呼び仲も良いみたいだ。


「わかった。研究室だな。」
リズナは大きな包を受け取り、食堂を後にした。







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