あらがうもの

□家族の再会・後編
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〜レギュラス視点・続き〜



「あなたが家出した後も、母上はシリウスのことを自分の息子だと思っていましたよ」

「嘘をつけ!」

「嘘ではありません。母上は家系図のタペストリーにあったシリウスの名前を自らの手で抹消しましたが、シリウスの部屋にあるものを処分しろとクリーチャーに命じませんでした」


シリウスの部屋の壁紙には、グリフィンドールの大バナーや、マグルの女や乗り物の写真が永久粘着呪文で貼りつけてある。

反スリザリン・反純血主義を主張する部屋がブラック家に存在すること自体、両親は我慢ならなかったはずなのに。


「親の心子知らずと言いますが、まったくその通りですね」


レギュラスが吐き捨てるように言うと、不服そうな仏頂面をしていたシリウスが口を開いた。


「……そういうお前も親不孝者じゃないか。お前が俺に当主を押し付けようとしたことを知ったら、母親の肖像画は間違いなく怒り狂うぞ」


親不孝者に親不孝者だと指摘されることが、こんなにも気に障るものだとは思わなかった。こめかみに青筋を浮かべたレギュラスは奥歯を噛み締める。


「私の下した判断が両親を裏切るものであることは認めますが、母上に心がなかったなんて私は口が裂けても言いませんよ」

「だろうな。お前は昔から、俺よりもよい息子だったからな。俺はいつも両親にそう言われながら育った……」


自嘲を滲ませた言葉を零したシリウスは、舌打ちをした。余計なことを言ったと悔いているように見えた。

シリウスは両親の評価など歯牙にもかけないタイプだと思っていたが、認められたいと思う気持ちが少しはあったのだろうか。

いや、まさか。そんな気持ちがシリウスに欠片でもあったなら、両親に認められるように努力するはずだ。

シリウスが実は親の愛情に飢えていて、両親によい息子だと思われていたレギュラスに嫉妬していたなんて──あり得ない。

そう自分に言い聞かせたレギュラスは「話を戻しますね」と言って、余計なことをこれ以上考えないようにした。


「ええと、私が先ほど言いかけたのは──シリウスにクリーチャーを任せなければいけない事情がある、ということです」


不愉快そうに眉をしかめたシリウスは間を置いてから、「事情とは何だ」と言葉を返した。


「シリウスがブラック家に関する所有権を全て放棄して命を落とし、私も死亡すると、この屋敷とクリーチャーの所有権は親族の中で最も年長の者──ベラトリックスに移行してしまいます。それを回避したいのです」

「生きてお帰りくださったレギュラス様がお亡くなりになるなんて──そんな恐ろしいこと、クリーチャーめは耐えられません!」


悲痛な声で訴えたクリーチャーは、大きく見開いた両眼から涙をこぼした。

レギュラスは慌てて席を立ち、床に膝をついて、老いた屋敷しもべ妖精の小さな体を抱きしめた。


「本当にそうならないように気を付けるよ。それでも例のあの人が力を取り戻したら、僕は命を狙われるかもしれない。万が一のときのことを話し合って、対策を立てておかないといけないんだ」


抱擁し合うレギュラスとクリーチャーに嫌悪の視線を向けていたシリウスは、考えこむように顔を撫でながら「そうか」と呟いた。


「ヴォルデモートが復活しちまったら、やつはアズカバンの看守を味方につけて、収監されている死喰い人を解き放つか」


すすり泣くクリーチャーの曲がった背をさすりながら、レギュラスは「おそらくそうなるでしょう」と答えた。

すると、シリウスは名案を思いついたとばかりに片手でテーブルを叩いた。


「それなら俺に当主を押しつけなくても、レギュラスが自分の死後、この屋敷をダンブルドアに所有してほしいと遺言書に書けば済む話じゃないか」


レギュラスはふざけるなと言おうとしたが、クリーチャーが憤然と言い返すほうが早かった。


「この屋敷をブラック家の純血の者以外の輩に相続させるなど、奥様が聞いたら決してお許しにはならない。クリーチャーは奥様に代わって、この家を守らなければなりません」
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