あらがうもの
□推測とスキャンダル
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闇の印が打ち上げられてから十数分後。疲労を漂わせたエイモスと森の中で合流して、ディゴリー親子はキャンプ場に引き返した。
死喰い人の気配はなく、さっきまでの暴動が嘘のように静かだ。
壊されたテントがいくつかくすぶって、焦げ臭い煙を漂わせていた。ディゴリー親子は辛うじて無事だった自分たちのテントに戻った。
「フィービーは闇の印が創り出されることも、予知夢で見ていたのか?」
屋根のガラスに星空が映りこんだコンサバトリーに入るなり、エイモスは険しい表情になって問いつめてきた。
「──ううん、それはわからなかった。ペインさん一家が死喰い人に捕まってしまうことも……ペインさんたちはどうなったの?」
フィービーが切羽詰まって聞き返すと、エイモスはほっとしたように脱力した表情を引き締めてから答える。
「ペインさん一家は、アーサーの息子たちとシリウス・ブラックの協力を得て救出した。あの人たちは今、記憶修正を受けているはずだ」
あんなに恐ろしい出来事を忘れさせるためには、強い忘却術をかける必要があるだろう。
詮索屋のペインさんはワールドカップのために世界中から魔法使いが集まる2週間のあいだ、1日に3回も忘却術をかけられていたようだから、記憶障害が起きないといいけれど。
これまでも映画の展開通りにならなかったことは何度もあったのに、死喰い人がマグルを狙う可能性に考えが及ばなかった。
自分の認識の甘さを痛感したフィービーは歯噛みした。
兄と再び喧嘩することになっても、襲撃の予知夢を見たことは父に報告するべきだった。
そうしていれば、エイモスがキャンプ場を管理するマグルの家に保護呪文をかけるなりして、手を打ってくれていたはずだ。
「父さん、あの印を創ったやつを捕まえたのかい?」
セドリックが張りつめた面持ちで聞くと、肘掛け椅子に腰かけたエイモスは不満そうに「いや」と答えた。
「闇の印の真下で、ハリー・ポッターの杖を持ったバーティ・クラウチのしもべ妖精を見つけたんだが、あの印を実際に創り出したのが誰かは皆目わからない」
「ハリーの杖?」
「どうしてウィンキーが?」
セドリックとフィービーは驚きの声を上げ、リュックサックから出てきたバジルも灰色の目を丸くしている。
エイモスは順を追って説明した。
闇の印が打ち上げられた犯行現場に魔法省の役人たちが姿現わしで駆けつけると、そこにはハリーとロンとハーマイオニーがいた。
彼らは「僕たちがやったんじゃない」と主張したけど、クラウチ・シニアはハリーたちが闇の印を創り出したのではないかと嫌疑をかけたようだ。
クラウチ・シニアは試合の最後まで貴賓席に姿をあらわさなかったけど、会場に来ていたらしい。
「木立の陰に誰かがいて呪文を叫んだとハーマイオニーが証言したので、私が捜索にあたった。魔法省の職員が一斉に放った失神呪文のどれかが、木立を突き抜けたように見えたからな。犯人が本当にそこにいたなら、呪文が当たって失神した可能性が大きい」
エイモスは木立の中を探し回って、意識を失っていたウィンキーを発見したと話した。
クラウチ・シニアは「絶対にこんなはずはない」と言い、エイモスが捜索した茂みを念入りに掻き分けて探したけれど、何も見つけられなかったという。