あらがうもの

□推測とスキャンダル
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「まずいことになった」


顔をしかめて呟いたエイモスは、スキーターが書いた魔法省批判記事の一部を読みあげた。

森に避難した人々に対し、暴動で怪我人は出なかったと知らせた魔法省の役人が、闇の印に関する不穏な情報を隠蔽したと受け取れる文が新聞に載ってしまったようだ。


「実際、戦闘に加わらなかった民間人の負傷者は出なかったんだ。それなのに、『数人の遺体が森から運び出されたという噂を、この発表だけで十分に打ち消すことができるかどうか、大いに疑問である』……こんな風に書かれてしまったら、確実に噂が立つだろうよ」


魔法省に送られる吼えメールの嵐を予感してか、エイモスは深くため息をついた。

フィービーはミルクをたっぷり入れた紅茶を飲みながら、ウィンキー探しをドビーに依頼するため、ハリーに手紙を書こうと考えた。

主人に解雇された屋敷しもべ妖精の中には、失意のあまり衰弱死してしまう者もいると聞く。

事件の鍵を握るウィンキーがこの世を去ってしまったら、闇の印が創り出された前後の状況などを聞くことができなくなってしまう。

クラウチ親子の世話をしてきたウィンキーと接触して話を聞くことができれば、何か糸口がつかめるかもしれない。


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〜レギュラス視点〜


芝居のクラウチ・シニアはムーディに化けたバーティに対面するまで、息子が脱獄したことを知らなかったようだが実際は違った。

黒猫の姿に変身していたレギュラスは、猫用リュックサックの中で考えを整理した。

バーティは獄中死を装って牢から出た。それを1人で成し遂げるのはどう考えても不可能だ。特別監視下にある囚人の脱走を手引きすることができる人物は、ごく限られてくる。

魔法省の高官だった頃のクラウチ・シニアなら特権を用いて、アズカバンに収監された息子と面会することが可能だったはず。

身内をアズカバン送りにしたクラウチ・シニアが自らの判断を悔いてバーティを密かに脱獄させるとは思えないから、クラウチ夫人が息子を牢から出すように夫を説き伏せたのではないか。

クラウチ夫人は一人息子のことを心から愛していた。

レギュラスはクラウチ夫人に会ったことはなかったけど、バーティの言動からそれは察せられた。

バーティは学生時代から父親に対して失望と憎悪を剥き出しにしていたが(用心深いバーティは闇の魔術と関わりのない生徒や教師の前では、両親を尊敬するよき息子として振る舞っていた)、母親のことは一度も悪く言った試しがなかった。

バーティが死喰い人として逮捕されて嘆き悲しんだクラウチ夫人は、愛息子を助けるために決死の行動に出る覚悟を固めたのだろう。
夫と共にアズカバンへ面会に赴いたクラウチ夫人は、息子の身代わりとなるため自ら牢に入った。
吸魂鬼は目が見えないから、入れ替わりを見抜くことはできなかったのだと思う。囚人が犬に変身していても、看守が気づかなかった前例もある。

母親の犠牲のおかげで独房から出られたバーティは晴れて自由の身になれるわけがなく、クラウチ・シニアに服従の呪文をかけられて長いこと家に幽閉されていたのだろう。

父親によって自由を奪われていたバーティは、どうしてワールドカップ会場に来ることができたのか。

今までレギュラスは1つの仮説を立てていた。
老いたクラウチ・シニアの魔力が弱まり(辞職に追いこまれた精神的ストレスも影響しているだろう)、バーティが父親の服従の呪文を破ったのではないかと。

その仮説は間違ってはいないのだろうが、バーティを外に出すことができる存在を見落としていた。

クラウチ家に仕える屋敷しもべ妖精のウィンキーだ。
彼女のことはクリーチャーから聞いていた(ブラック家とクラウチ家は親戚関係なので、両家に仕える屋敷しもべ妖精の間でも親交があるようだ)。
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