あらがうもの

□推測とスキャンダル
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寝返りを打ったフィービーは、床に置いた猫用リュックサックを見つめた。

死喰い人がマグルの一家にした仕打ちについて、レギュラスがどう思っているのか知りたいけど返事を聞くのが怖い。

彼の口からマグルがどうなろうと知ったことではないという言葉が飛び出したら、今までどおり接することができなくなりそうだ。


「おやすみ、バジル」


遅ればせながら就寝のあいさつをしてみたけど、バジルはすでに寝ているのか返事をしなかった。


───
──────


移動キーが置かれている場所は、夜明け前から大混雑だった。
とにかく早くキャンプ場から離れたがった大勢の魔法使いが詰めかけて、大騒ぎになったからだ。

エイモスが移動キーの番人のバージルと手早く話をつけたので、ディゴリー親子は太陽が完全に昇りきった頃には、古新聞の移動キーをつかんでストーツヘッド・ヒルに戻れた。

黙々と歩き続けた3人が低い丘が続く丘陵地にたどり着いたとき、ぽつんと建った二階建ての我が家のほうから、母親と思しき人影が近づいてきた。

家の前でずっと待っていたのだろう。スリッパのまま駆け寄ってきたモニカは、顔面蒼白だった。


「ああ! よかった……本当によかった!」


夫の首に抱きついたモニカの手から力が抜け、日刊預言者新聞が朝露を含んだ地面の上にぽとりと落ちた。

フィービーが見下ろすと、「クィディッチ・ワールドカップでの恐怖」と書かれた新聞の一面大見出しが目に入った。森の上空に、闇の印がモノクロ写真でチカチカ輝いている。


「みんな、生きていてくれた……無事だったのですね」


エイモスから離れたモニカは真っ赤に充血した目で、セドリックとフィービーを見つめた。

フィービーは母親に対して罪悪感をおぼえた。と、同時に焦った。

死喰い人がキャンプ場を襲う予知夢を見たことを黙っていたと知れたら、モニカは本気で怒るかもしれない。

モニカは大声で怒鳴ったりしないけど、冷え冷えとした空気をまとって延々とお説教してくる。しかも、逆鱗に触れると何日も機嫌が悪い日が続くのだ。


「さあさあ、母さん。みんな、無事なんだから」


息子と娘を交互に抱きしめる妻をエイモスは優しくなだめてから、家に入ろうと促した。

食堂に入ったフィービーは猫用リュックサックを床に降ろした。話をする前に逃げられると困るので、バジルを出すのは後回しだ。


「父さん、はい」


セドリックはモニカが庭先に落とした日刊預言者新聞を、エイモスに渡した。

新聞の一面にざっと目を通したエイモスは、苦りきった声で「思ったとおりだ」と言った。


「魔法省のヘマ……犯人を取り逃がす……警備の甘さ……闇の魔法使い、やりたい放題……国家的恥辱……いったいだれが書いている? やっぱり、リータ・スキーターか」


ジャーナリストのリータ・スキーターが書くのは、ほとんど中傷記事だ。

いつだったか、スキーターがグリンゴッツの呪い破り職員を全員インタビューした記事を書いたとき、ジニーが怒っていた。


「あの忌々しい女記者は、ビルのことを長髪のアホって書いたのよ。コウモリ鼻糞呪いを入れた封筒を、リータ・スキーターに送りつけてやるわ」


ジニーが本当に危険物を送りつけたかどうかは知らないが、一般的に見ればスキーターの人気は高い。
特ダネを見つけ出す記者としての才能と、権力者に対して歯に衣着せない物言いをすることが読者に受けているようだ。
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