あらがうもの

□推測とスキャンダル
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「それで、ウィンキーはどうしてハリーの杖を持っていたの?」

「クラウチ氏の屋敷しもべは、ハリーが落とした杖を木立の中で拾ったらしい。犯行現場に偶然居合わせて、凶器の杖を偶然拾ったなんて信じがたいがね。ハリーは森に入ったときに、自分の杖がないことに気づいたようだ」


エイモスは皮肉っぽい口調で偶然という言葉を強調したが、フィービーは凶器の杖という言葉を聞いて引っかかりを感じた。

クラウチ・ジュニアはどうして自分の杖ではなく、森に落ちていたハリーの杖を使って闇の印を創り出したのか。

脱獄したクラウチ・ジュニアは公では故人扱いになっているから、新しい杖を手に入れるのが困難だったのかもしれない。
だとしたら、森の中で運良く拾ったハリーの杖を自分のものにしそうだけど。


「魔法使いにとって杖は大事な物なのに、うかつな少年ですね」


バジルが心底あきれた声で合いの手を入れると、エイモスはため息まじりに「まったくだ」と同意した。


「それなのにアーサーとシリウス・ブラックは、ハリーが杖をなくしたことを咎めもしない。闇の印が打ち上げられた犯行現場に居合わせた上に、闇の印が創り出された杖が自分のものであれば、普通の魔法使いや魔女だったら役所に連行されているぞ」


腹立たしげなエイモスの言い分は間違っていないけど、例のあの人に両親を殺されているハリーが闇の印を創り出すなんてあり得ない。

それを指摘すると父が怒りそうな気がしたので、フィービーは気になっていたことを尋ねた。


「ウィンキーはどうなったの? まさか、魔法省に連れて行かれたんじゃ……」

「いいや。バーティ・クラウチが自分のしもべに洋服を与えて解雇して、勝手に片を付けてしまった。あの屋敷しもべは真犯人のすぐ近くにいたはずなんだ。役所に連行して尋問しなければならなかったのに……」


エイモスはクラウチ・シニアの独断専行に納得いかなかったらしく、怒りをあらわにした。

クラウチ・シニアは魔法法執行部部長まで登りつめた実力者だ。それにクラウチ家は、純血の魔法族の中でも名門の旧家として名高い。
エイモスがクラウチ・シニアの決定を覆すことができなかったのは、彼が職を辞しても省内に影響力を持つからだろう。

首の根元を揉んだエイモスは懐中時計を引っ張り出して、「もう朝の3時か」と言った。


「何が起こったか母さんが聞いたら、死ぬほど心配するだろう。あと数時間眠って、早朝に出発する移動キーに乗ってここを離れることにしよう」


フィービーは寝室に戻ってベッドに横たわったけど、考え事で頭が一杯になって眠れなかった。

闇の印が創り出された現場にウィンキーが居合わせたことや、クラウチ・シニアがウィンキーを解雇して一方的に片をつけたことが、どうしても気になる。

後者に関しては、クラウチ・シニアと闇の印の関連性が再び取り沙汰されれば、死喰い人だった息子のことを蒸し返されるのは目に見えているから、それを避けたかったのかもしれない。

けれど、クラウチ・シニアの性質が昔と変わっていなければ、ウィンキーを徹底的に尋問して真犯人を探し出そうとするのではないか。
それをしなかったということは──ダメだ。疲労のせいか頭痛がしてきて、これ以上考えがまとまらない。
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