あらがうもの

□隠れ穴へ
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ぼやけた暖炉の影が次々と、フィービーの目の前を矢のように通りすぎる。

フィービーは高速で回転していたのだが、しばらくしてスピードが落ちるのを感じ、衝撃に備えた。

火格子から飛び出たフィービーは、ウィーズリー家のこぢんまりした台所に到着した。


「フィービー!」


燃えるような赤毛をなびかせて、ジニーが駆け寄ってきた。

少し遅れて、豊かな栗色の髪をハーフアップにしたハーマイオニーも近づいてくる。
彼女はジニーに招待されて、ウィーズリー家に泊まるために今日の昼頃に隠れ穴に到着したらしい。


「久しぶりね、フィービー」

「やっほう、ハーマイオニー。ジニー、夕食に招いてくれてありがとう」

「お礼を言いたいのは、あたしのほうよ。フィービーが来てくれて、とっても嬉しい!」

「やあ、フィービー、調子はどうだい?」


チャーリーが台所の椅子から立ち上がって、声をかけてきた。

ルーマニアでドラゴン使いとして働くウィーズリー家の次男は、痩身で背の高いロンやパーシーと比べると、背は低くがっしりした体格の持ち主だ。

半袖のTシャツの袖からのぞいた両腕は筋骨隆々で、片腕には大きなテカテカした火傷の痕があった。


「絶好調だよ。その火傷、ルーマニア・ロングホーン種の雌にやられたんだよね? 具合はどう?」

「だいぶよくなったよ。火傷が早く治るように、フィービーが祈ってくれたおかげだ」


チャーリーはそう言って、日焼けしたようにそばかすだらけの大振りな顔に、人の良さそうな笑みを広げた。

たしかにフィービーは手紙に彼の全快を祈る一文を書いたけど、こうして言われると気恥ずかしい。

そのとき、ぶーっと噴き出す音が聞こえた。長く伸ばした赤髪をポニーテールにした青年が、白木のテーブルに突っ伏して震えていた。

端正な顔を上げて「悪い、チャーリー」と言ったのは、ウィーズリー家の長男のビルだ。
彼はエジプトのグリンゴッツ銀行に勤務する呪い破りなのだが、ロック歌手といっても通用しそうな装いだった。片耳に牙のようなイヤリングをつけ、ドラゴン革のブーツを履いている。


「やあ、フィービー、元気にしていたかい?」

「うん。ビルはなんだか、雰囲気が変わったね」

「独立したから、好きな格好をしたくてさ。それに銀行じゃ、僕がちゃんとお宝を持ちこみさえすれば、だれも僕の服装なんか気にしないよ」


そのとき、セドリックが暖炉から出てきた。兄はモニカから、手土産の料理を持たされて遅れたらしい。

ウィーズリー兄妹やハーマイオニーとあいさつをしたセドリックも、やはりビルの変化に驚いていた。


「まあ、セドリック、フィービー、いらっしゃい」


台所に入って声をかけてきたのは、小柄でふくよかなモリーさんだ。


「夕食にお招きいただき、ありがとうございます。心ばかりの物ですが、これは母から……」


セドリックが差し出した、蓋つきのグラタン皿を受け取ったモリーさんは困ったように笑いながら、「あらあら」と言った。


「どうもありがとう。お母様によろしくお伝えしてね。さて、と。みんなが集まれば、ここにはとても入りきらないわ。庭で食べることにしましょう」
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