あらがうもの
□隠れ穴へ
2ページ/5ページ
夕食の支度に取りかかったモリーさんは、子どもたちに役割をてきぱきと割り振った。
ビルとチャーリーは、テーブルの準備。フィービーとジニーとハーマイオニーは、お皿を外に運び出す係。セドリックは、ナイフとフォークを持って行く係だ。
「パーシーはまだ帰ってきていないの?」
勝手口から裏庭に出たフィービーは、重ねた皿を持っていたジニーに尋ねた。
ホグワーツを首席で卒業したウィーズリー家の三男は、念願かなって魔法省への入省が決まったらしい。
ロンの手紙によれば、パーシーは国際魔法協力部に勤務することになったようだ。それを知ったフィービーは、彼の就職を素直に喜ぶことができなかった。
国際魔法協力部は、バーテミウス・クラウチ・シニアが勤めていた部署だった。そして現在の国際魔法協力部部長は、コーネリウス・ファッジだ。
映画とは違う流れになっているけど、パーシーが因縁めいた部署に配属されたことは、あまりいい予感はしない。
「今日は家にいるわよ。パパに帰れと言われなきゃ、パーシーは家に帰らないんじゃないかしら」
ジニーがうんざりした口調で答えると、ハーマイオニーはフォローするように言った。
「でも、パーシーは新任なのに仕事をどんどん任されているんでしょう?」
「上司のファッジがやる気ないから、パーシーに仕事を投げているだけよ。おかげでパーシーは、自分は有能だから部長の信頼を得ていると思いこんで、いつもより偉ぶっているわけ。階段をのぼっただけで、『うるさくて集中できない』って注意されるのよ。嫌になっちゃう」
ジニーの愚痴は、家の前のほうから何かがぶつかる大きな音にさえぎられた。
フィービーたちが急いで前庭に回ると、騒ぎの正体がわかった。
芝生の上に高々と飛んだ2つの使い古したテーブルが、互いに体当たりを仕掛けている。杖を構えたビルとチャーリーが、テーブルの落としっこをしているようだ。
ダイナミックな遊びは日常茶飯事になっているのか、ジニーは声をあげて笑っている。
フィービーは2人を応援しながら、彼らの杖さばきを観察した。
遊びとはいえ、ビルとチャーリーの杖の振り方は寸分の狂いもない。さすがは第一線で活躍する、呪い破りとドラゴン使いだ。
ハーマイオニーとセドリックはおもしろいやら心配やら、複雑そうな顔をして見守っていた。
ビルのテーブルが物凄い音でぶちかましをかけると、チャーリーのテーブルの脚が1本もぎとられた。
そのとき、上のほうからカタカタと音がした。
魔法でいくつもの部屋を支えて曲がりくねった家を見上げると、パーシーの頭が3階の窓から突き出していた。
「静かにしてくれないか?」
怒鳴ったパーシーに対し、ビルはニヤッと笑って答える。
「ごめんよ、パース。鍋底の報告書はどうなったい?」
「最悪だよ」
気難しそうに眼鏡を持ち上げながら答えたパーシーは、窓をバタンと閉めた。
たしかにジニーの言う通り、ウィーズリー家の三男は以前にも増してとっつきにくくなったようだ。
ビルとチャーリーは弟の堅物さに慣れっこになっているのか、クスクス笑っている。
彼らはテーブルを2つ並べて、安全に芝生に降ろした。ビルは杖を一振りしてもげた脚を元に戻し、どこからともなく白いテーブルクロスを取り出した。