あらがうもの

□ふくろう便
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支度を終えたフィービーが食堂におりると、ブルーのストライプシャツを着たセドリックはすでにテーブルについていた。

今朝は明るく元気よく、あいさつをしようか。いや、それはまだ早い。もう調子づいたのかと思われたら困る。肩の力を抜いて自然に。それでいこう。

こんな風に身構えている時点で不自然なのだけど、慎重に口を開いたフィービーはそこまで考えを回す余裕がなかった。


「セド兄、おはよう」


フィービーの隣の椅子に座っていたセドリックは、ティーポットを取って自分のカップに紅茶を注ぎながら、「おはよう、フィービー」とあいさつを返した。

以前のように兄が朝のあいさつと一緒に、さわやかな笑みを向けてくれる日はまだ遠そうだ。

先学期末に決闘する羽目になってしまったセドリックとは、日常会話をかわすところまでは兄妹関係を修復できたけど、ぎこちない状態が続いている。


「おはよ、バジル」

「おはようございます、フィービー」


床に腰を下ろして顔を洗っていたバジルは身繕いを中断して、椅子に座ったフィービーの膝の上に飛び乗った。

そのとき、モニカがトーストやベーコンエッグなどをのせた皿を杖で浮かべて運んできた。


「ママ、おはよう。パパはいつ帰ってきたの?」


フィービーは食堂に入る前に見た、居間の壁にかかっている時計を思い出しながら尋ねた。昨日は夜勤だったエイモスの居場所を示す針は、「仕事」を指していた。


「お父様はまだ帰ってきていませんよ。ワールドカップの決勝戦の日に非番をとるためとはいえ、仕事を任されすぎじゃないかしら……」


心配そうなモニカの声を聞きながら、フィービーは内心でひやりとした。

ワールドカップの決勝戦という言葉が出たとき、セドリックの表情が強張ったように見えたからだ。

シリウスがワールドカップの切符をエイモスに押し売りしてきたおかげで、夏休み開始早々、フィービーは父親に問いつめられる羽目になった。


「貴賓席で観戦したいと、ハリー・ポッターに頼んだのか?」


フィービーはそんなこと頼んだ覚えはないと言ったけど、エイモスとセドリックは信じてくれなかった。兄の妹に対する信用度は、今やシャボン玉の膜より薄い。

それなのにセドリックは、フィービーがハリーたちと協力してバックビークを逃がした上に、叫びの屋敷で吸魂鬼の群れに襲われたことを、両親に報告していないようなのだ。

先学期末の事件を知れば、エイモスが激怒することは目に見えている。
ハリーたちとは二度と関わるなと言われるだろうし、罰としてワールドカップの観戦を禁止されそうだ。

それを予想したセドリックは、あまりにもフィービーが可哀そうだと思ったのか。いや、今の兄はそこまで妹に甘くないだろう。

セドリックは連帯責任を負わされて、自分もワールドカップの観戦ができなくなることを恐れたのではないか。
バジルはそう推察していたけど、責任感の強い兄が責任逃れをするとは思えなかった。

もやっとした気持ちを冷たいかぼちゃジュースで飲み下したフィービーは、鶏肉とかぼちゃを煮込んだスープをバジルに食べさせた。
相変わらず、猫のエサとは思えないほど手の込んだメニューだ。

フィービーが自分の食事を開始しようとしたとき、食堂の窓からモリフクロウが1羽入ってきた。
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