あらがうもの

□ふくろう便
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緊張した面持ちのセドリックは、モリフクロウが配達した大きな四角い封筒を受け取り、封を切って中に入っていた羊皮紙を広げる。

どうやらO.W.L試験の結果が届いたらしい。兄の端正な顔が安堵と喜びでほころんだところを見ると、好成績を修められたようだ。


「まあ、素晴らしいわ! 優・Oが10個も……セド、よく頑張りましたね」


渡された成績表を一読したモニカは歓声をあげ、息子に向かって誇らしげに微笑みかけた。

フィービーがお祝いの言葉をかけようとしたとき、新たなふくろうが窓から飛びこんできた。
テーブルの上に降り立った雪のように白いふくろうは、嘴に封筒をくわえている。


「タイミングの悪いふくろうですね。飼い主に似たのでしょうか」


ぼそりと呟いたバジルの言葉に含まれたトゲを聞き取ったのか。ハリーが飼っている白ふくろうのヘドウィグは、黒猫を威嚇するようにジロリと睨んだ。

フィービーはヘドウィグに謝ってから、白ふくろうの嘴から封筒を受け取る。

配達の労をねぎらうためにベーコンの切れ端をあげようとしたけど、ヘドウィグはここにはもう用はないとばかりに飛び立った。

フィービーは赤と金の縞模様で縁どられた封筒を破きながら、夏休みに入って早速トラブルに巻き込まれたハリーのことを思い出した。

ロンから聞いた話だと、ハリーの従兄が太りすぎて校医から食事制限を命じられたため、ダーズリー家では居候のハリーも含めて、家族全員でダイエット中なのだという。

ハリーはここ数年で背は伸びたけど相変わらず細身で、むしろ肉をつける必要がある体型だ。
けれど、魔法使いを忌み嫌うダーズリー夫妻は、甥の体重など知ったことではないだろう。

ハリーのピンチを察したシリウスは、屋敷しもべ妖精のドビーをダーズリー家に向かわせて、ハリーのために1日3食しっかり食事を用意させているらしい。

その経緯をロンから聞いたとき、フィービーは疑問に思った。
プリベット通りで屋敷しもべ妖精が魔法を使ったら、ハリーは今度こそ退学処分になるのではないか。

フィービーの質問を受けたロンは、「ハリーは退学にならないよ」と答えた。


「命が危ない場合は、未成年魔法使いでも魔法の使用が許される法令があるだろ。シリウスはそれを盾にして、ハリーが餓死させられそうになっているから特例を認めろって、魔法大臣に迫ったらしいよ」


イギリス魔法界のトップである魔法大臣と直談判するため、シリウスは魔法界屈指の名門ブラック家の名前を最大限に利用したのだろう。

政治的なあれこれはさておき。ふくろうに保存のきく食料を持たせて、ハリーに送れば済む話だったのではないか。

そう思いながら、フィービーは封筒に入っていた羊皮紙を広げた。


“フィービー、元気にしてる?

この間は手紙で、ドビーの出張手当について忠告してくれてありがとう。

ドビーはそんなにたくさんお金は欲しくないって言ったから、食事を用意してくれたお礼として、スニッチ柄のネクタイを彼に贈ることにしたよ。

これでハーマイオニーは納得してくれるかな? 僕はドビーをちゃんとねぎらったって、ハーマイオニーにそれとなく話してくれると助かるんだけど。頼むよ”


文面からハリーの必死さが伝わってきて、フィービーは少し罪悪感をおぼえた。

ドビーに出張手当を出さないと、ハーマイオニーからお説教を受けることになるかもしれないと手紙に書いたのは、冗談半分だったのだけど。

せめてものお詫びに、ハリーから頼まれた通りにしよう。ドビーが出張手当をもらったと知れば、彼女の屋敷しもべ妖精擁護熱が高まりそうな予感がするけど。

気を取り直してハリーの手紙を読み進めると、ダドリーのダイエットがうまくいっていないことや、ワールドカップの話題が書いてあった。
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