あらがうもの
□リドルの館
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小高い丘の上に建つ古屋敷の窓で、灯りが点滅している。
自宅の台所の窓からそれを目撃した年老いたマグル男性は、「また悪がきどもが」と罵りながら、フックにかけてあった鍵の束を取り外す。
彼は懐中電灯と歩行補助用の杖を持ち、夜の闇に包まれた庭園へと向かった。
蔦に覆われた裏口の扉から屋敷の中に入ると、クモの巣がそこらじゅうにはびこって荒れ果てた様が目についた。
「お前も偉くなったものだな、ワームテール」
年老いたマグル男性が階段の踊り場にたどり着いたとき、人間のものとは思えぬ冷たい声が聞こえた。
警戒した年老いたマグル男性は、懐中電灯の灯りを消した。それで周囲が真っ暗になるわけではない。侵入者が点した灯りが、上階から差しこんでいる。
「かつてはネズミの姿でドブに住んでいた分際で、俺様の世話をするのが面倒になったという訳か」
「いいえ、滅相もない、ヴォルデモート卿」
今度はおどおどした男の声が聞こえた。
廊下の奥にあるドアが半開きになっており、部屋の中が見えた。
侵入者の1人は小太りの中年男性だった。男は腰を折った低姿勢で、肘掛け椅子に向かって話しかけている。
部屋の外にいる年老いたマグル男性の角度からは、肘掛け椅子に座っている人物の姿は見えなかった。
「わたくしはただ、あの小僧抜きでもおできになるのではないかと」
「あいつが、肝心なのだ! やつ抜きではできん!」
冷たい声の主が激したように叫んだとき、もう1人の男が出てきて肘掛け椅子の脇に膝をついた。
黒いマントをまとった痩せた男だ。小太りの男より年若に見えるが、悪がきと呼べる年齢ではない。
「実行するのだ。命令した通りにな」
「お任せください、ご主人様」
痩せた男が返事をした。小太りの男とは違って、怯えた様子が見当たらなかった。
「よろしい。まずは昔の同胞を呼び寄せよ。印を送るのだ」
侵入者たちの話を聞くのに夢中になっていた年老いたマグル男性は、足元を通りすぎた何かに気づいて震えあがった。
それは、とてつもなく巨大な蛇だった。長くて横幅のある胴体を曲がりくねらせながら廊下を横切り、開いたドアの隙間から入っていく。
部屋の中から、シューシューという奇妙で不気味な音が響いた。
「ナギニからの報せだ。部屋の外に老いぼれマグルの庭番がいるそうだ」
冷たい声の主がそう言うと、肘掛け椅子に絡みついた大蛇を見上げていた痩せた男がこちらを向き、小太りの男が素早く戸口に出てきた。
年老いたマグル男性は、暗がりに身を隠す間もなかった。
「そこを退け、ワームテール。客人を歓迎申し上げねば」
身の毛もよだつ声の持ち主が指示を出すと、ドアを開けた小太りの男は薄笑いを浮かべ、ネズミのような前歯をのぞかせる。
侵入者たちの異常性を察した年老いたマグル男性は、敵意がないことを示すために両手を挙げた。
「アバダケダブラ!」
冷たい声の主が死の呪文を唱えた瞬間、目を見開いた年老いたマグル男性を緑色の閃光が襲う。
年老いたマグル男性の家では火にかけられたままのヤカンが、悲鳴のような音を立てていた──。