あらがうもの

□侵入者
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〜レギュラス視点・続き〜



上体を起こそうとしたフィービーがふらついていたので、レギュラスは腕を差し伸べて、彼女の背中を支える。

毒見済みのチョコレートの欠片を食べると、フィービーの頬に赤みが戻ってきた。


「……チョコレートを用意していたってことは、叫びの屋敷の一部を破壊して、吸魂鬼を入れた犯人はレギュラスだったんだね」

「ご推察の通りです」


愛想笑いを浮かべて答えたレギュラスを、フィービーは正面からまっすぐ見据えてきた。

琥珀色の澄んだ瞳は、彼女とは似ても似つかないシリウスを連想させるときがある。


「どうして、吸魂鬼を叫びの屋敷に入れたりしたの?」


レギュラスは答える代わりに、自身の旅行用マントの内ポケットを探って、細い金色の鎖を取り出した。


「グレンジャーの逆転時計です。先ほどの混乱に乗じて、呼び寄せ呪文で奪いました」

「──それを使って、何をするつもり?」


問いかけてきたフィービーの声から、警戒の響きが確かに聞き取れた。

歴史を変えてしまえる逆転時計を、元死喰い人が盗んだのだ。怪しまなかったら、それはそれで困る。


「洞窟で命を落としかけた過去のレギュラス・ブラックを救い、分霊箱を回収しに行きます」

「……レギュラスが助けに行ったら、過去のレギュラスは混乱して攻撃してくると思うけど」

「過去の私には見られないように気をつけます。お疑いでしたら、私についてきてください」


驚いたように目を丸くするフィービーに向かって、レギュラスは淡々と話し続けた。


「私が逆転時計を持ち逃げしたり、よからぬことに使用したりしないように、フィービーには私をしっかり見張ってもらいたいのです」


さすがにフィービーは即答しなかった。

これからレギュラスが向かおうとしている15年前は、闇の帝王の全盛期。しかも、行き先は分霊箱が秘された場所。恐怖心を抱かないわけがない……のだが。


「わかった。私も一緒に過去に行くよ。レギュラスはこれまで、何度も私の窮地を救ってくれたから、その恩返しを……」

「やめてください。恩返しなんて、うっとうしいだけですから」


レギュラスはうんざりした声で、フィービーの言葉をさえぎった。

危険な依頼に見合った代価を要求するなら、納得できる。けれど、見返りを求めずに協力すると言う思考回路は理解できない。

ハッフルパフ生は愚かだと評価されるが、それは成績面だけを指しているわけではなく、度が過ぎた善良さを揶揄しているのではないか。

時にそれは命取りになる。善良で誠実で公明正大なセドリックが、芝居でどのような最期を迎えたか、フィービーは嫌というほど知っているだろうに。


「──私と一緒に過去に行ってくれるだけで、十分ですよ」


罪悪感を押し殺してレギュラスが優しく言葉をかけると、気落ちしていたフィービーはあっさり元気を取り戻した。

愚かなフィービー。死喰い人の言うことは信じてはいけないと、何度も言ったのに。

逆転時計を使って自分の生まれる前の時代に行くのは、非常に危険を伴う。
アクシデントが起きた場合、ミンタンブルのように自分の血族の存在を消してしまう恐れがある。

家族思いの彼女にミンタンブルの悲劇を思い出させたら、過去に行くのをためらうだろう。そう予想したレギュラスは、あえて指摘しなかった。

これから行く先では、どうしてもフィービーの力が必要になるからだ。



〜レギュラス視点・終わり〜
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