あらがうもの

□侵入者
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〜レギュラス視点〜



必要の部屋とは実に便利な部屋だ。
アニメーガスが通ると反応する魔法がかけられておらず、ホッグズ・ヘッドに通じていない抜け道が必要だと念じたら、本当にそれを用意してくれたのだから。

本日の昼頃、レギュラスはその抜け道を通って、マダム・パディフットの店から外に出た。それから人目につかない場所で姿くらましをして、叫びの屋敷に入った。

レギュラスはまず、盗聴できる小型魔法道具を屋敷の各部屋に仕掛けた。
これでレギュラスは離れた場所にいても、フィービーたちが叫びの屋敷にやってきたことが把握できる。

さらに叫びの屋敷全体に、屋敷しもべ妖精が姿現わしをできないようにする魔法をかけた。
危険を察知したシリウスがお調子者の屋敷しもべ妖精を呼び出して、子供たちを城に戻せと命じると、レギュラスの目的が達成できなくなると思ったからだ。

そして、騒動を起こした隙に目当てのものを手に入れ、今に至る。

レギュラスが姿現わしでたどり着いたのは、ディーンの森だ。ブラック家にゆかりのある土地より、芝居でグレンジャーが潜伏先として選んだ場所のほうが、追跡されにくいはずだ。

それはともかく。レギュラスが抱きかかえているフィービーは、顔から血の気がなくなって、ぐったりとしていた。吸魂鬼の群れの餌食になった上に、付き添い姿くらましの慣れない感覚に神経が参って、気絶してしまったのだろう。

一昨年に出会ったケンタウルスは、レギュラスが変身した黒猫のことを守護者と呼んだが、自分はむしろフィービーに害を及ぼす者だ。

物思いを振り切ったレギュラスは、フィービーを草むらにそっと横たわらせてから、再び杖を握った。

とりあえず、追手を防ぐ対策を講じなくては。自分とフィービーの周りに大きく円を描くように歩きながら、保護呪文を唱える。


「サルビオ ヘクシア(呪いを避けよ)……プロテゴ ホリビリス(恐ろしきものから護れ)……レぺロ マグルタム(マグルを避けよ)……マフリアート(耳塞ぎ)……カーベ イニミカム(敵を警戒せよ)!」


レギュラスが天に向かって杖を打ち振ると、周囲の空気に小さな乱れが生じ、陽炎で覆われたようになった。

息をついたレギュラスは草むらに膝をつき、大理石より白い顔色のフィービーを見つめた。

彼女を連れてきたのは、間違いだったのではないか。なけなしの良心が、そう訴えてくる。何を今更。ここで迷うくらいなら、もっと早くフィービーから離れていればよかったんだ。

憂いを断ち切るように、レギュラスは彼女に杖を向けて、気つけ呪文をかけた。

身じろぎをしたフィービーは、ゆっくりとまぶたを持ち上げ、琥珀色の瞳をのぞかせた。

レギュラスは旅行用マントの内ポケットから革製の巾着袋を取り出し、中に入っている板チョコを呪文で呼び寄せる。
包み紙を破ってチョコレートを割っていると、フィービーからじっとりとした視線を感じた。


「ちゃんと説明しますから、まずはこれを食べてください」


フィービーはレギュラスが差し出したチョコレートの欠片を、胡散臭そうに見ていた。

毒を盛っていないと示すため、レギュラスはチョコレートの欠片をかじった。
解毒剤をあらかじめ口に含んでいれば、この行為に意味はない。けれど、経験の浅いフィービーは警戒心を解いたようだ。

あとで毒物に対する用心を、フィービーに教えたほうがいいだろう。ごく自然に浮かんだ考えの甘さに気づき、レギュラスは内心で自嘲する。

これから行おうとしている計画が上手くいかなければ、彼女に何かを教える機会なんて永遠に巡ってこないのに、呑気なものだ。
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