あらがうもの
□選抜とお茶会
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「第1回目のホグズミード行きは10月末か。ハロウィンだな」
談話室の古い掲示板に貼り出されたお知らせを見たアーニーは、嬉しそうな声をあげた。
笑みを広げたハンナとスーザンは、ハロウィンという言葉を聞くなり鋭く息をのんで、2人同時にフィービーのほうをおそるおそる振り返った。
「ねえ……フィービーはたしかトレーローニー先生に、10月31日にもっとも恐れていることが起きるって予言されていたわよね?」
久しぶりの楽しみにケチをつけられたフィービーは、心底うんざりした。
占い学の先生の言うことを頭から信じこんだ同室者たちは、根拠のない忠告を次々としてくるようになっていた。フィービーが金曜日にクィディッチの練習をすると怪我を負うとか、ハリーと行動を共にすると不吉なことが起きるとか。
はじめのうちは笑って流せていたフィービーだけど、次第に失望が募って笑えなくなった。
決定打になったのは、「スミスとの連携がうまくいかないのは、トレローニー先生の予言を無視するからよ」と同室者たちに諫められたことだ。
以前の彼女たちなら、フィービーに同情してくれたはずなのに。あやふやな占いごときで一変してしまう関係だったのかと、やるせなくなる。
不満と悲しみがあふれ出したフィービーは、口調が攻撃的になるのを抑えきれなかった。
「私のそばにいると死神犬に呪われるとか思っているなら、一緒にホグズミード村を回らなくていいよ」
するとハンナが気分を害したように、眉をしかめて反論してきた。
「なにもそんな言い方しなくたって……私たちはフィービーのことを心配しているのよ?」
彼女たちに悪気はないとわかっている。だからこそ強く否定できないから質が悪い。
スミスがにやにや笑いながらこっちを見ていることも気に障ったフィービーは、「頭を冷やしてくる」と言い捨てて談話室の出入り口に向かった。
一部始終を黙って見ていたマーサは何か言いたそうにしていたけど、不機嫌なフィービーを見て声をかけるのをためらったのか、話しかけてこなかった。
強い心を持つ魔女になると決意したのに、親友に八つ当たりするなんて全然ダメだ。自己嫌悪に陥ったフィービーは、むしゃくしゃした気分を変えるために校内マラソンをすることにした。
薄暗くなった玄関ホールに出たとき、泥だらけになった真紅のユニフォームを着たグリフィンドール・チームの選手が、巨大な樫の正面扉を通って城に戻ってきたところだった。
「よう、フィービー。わざわざ出迎えに来てくれたのか?」
ニンバス2001を担いだフレッドとジョージが真っ先に、フィービーに気づいて声をかけてきた。
「ううん。気分転換するために城内マラソンをしていたところ」
「我々のチーム練習を偵察していたのではないだろうな?」
たくましい7年生のオリバー・ウッドの探るような視線からフィービーをかばうように、フレッドとジョージが2人同時に間に入った。
「フィービーがそんなことするわけないだろ。サマービーが競技場をうろついているのは見かけたけどよ」
オスカーはセドリックからハリーがファイアボルトを入手した情報を聞いて、それを確かめに行ったのだろう。
疲れて欠伸をしていたハリーが持っているのは、ニンバス2000だ。
「ポッターはドラコの度肝を抜いてやろうと企んで、スリザリン戦までファイアボルトを所持していることを隠し通すつもりでしょう」バジルはそう予想していたが、当たっているかもしれない。
するとグリフィンドール・チームの女性選手3人が、急にクスクスと笑った。
双子の片方がむっとした声で、「なんだよ?」と言い返した。
「サマービーって、赤っぽい金髪のハンサムな人でしょう?」
アンジェリーナ・ジョンソンの言葉に、ケイティ・ベルが「面白くて強そうな」と受け答え、アリシア・スピネットも一緒になって笑いはじめた。
「頭だけじゃなく尻も軽い野郎のどこが面白いんだ」
自チームの女性陣が、他チームのビーターを好評価したのが気に入らなかったのか。フレッドとジョージは目に見えて不機嫌になった。
収拾をつけるためにウッドが厳しい声で、「寮に戻るぞ」と呼びかけた。
グリフィンドール・チームの面々はフィービーに手を振って、大理石の階段をのぼっていった。