あらがうもの

□まね妖怪
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黒いマントを翻して地下牢教室を見回るスネイプ先生が殺気立っていたため、魔法薬学のクラスはいつにもまして静かだった。

薬学教授の不機嫌の理由は、ネビルが防衛術の授業でまね妖怪が変身したスネイプ先生を女装させて退治した噂が、昨日の夕食時に学校中に野火のように広まったからだ。

今日の午前中に魔法薬学を受けたグリフィンドールの4年生が、地下牢教室の前でルーピン先生のことを絶賛していたら、スネイプ先生の不興を買って30点も減点された上、樽いっぱいのネズミを解体する罰則を言いつけられたらしい。

フィービーは縮み薬の調合を進めつつ、近くで作業するスーザンに目を配った。
死骸が大の苦手なスーザンは手元を見ないで死んだイモムシを輪切りにしていたので、ハンナとマーサもはらはらして見守っていた。
助言をしたいのは山々なのだが、昼休みにスーザンから「スネイプに目を付けられるから、みんなは自分の課題に専念して」とお願いされている。

試験より緊張感に満ちた空気も影響したのか、スーザンは普段よりミスが多くなり、明るい黄緑色になるはずだった水薬が──。


「オレンジ色か、ミス・ボーンズ」


スネイプ先生は柄杓で水薬を大鍋からすくい上げ、それを上からタラタラと垂らし入れて、みんなに見えるようにした。


「間抜けなロングボトムも調合に失敗して、薬をオレンジ色にした。ミス・ボーンズも夏休みの宿題の縮み薬に関するレポートに、真面目に取り組まなかったようだな。それに我輩は先ほどはっきり言ったはずだ。ネズミの脾臓は1つでいいと。聞こえなかったのか? ヒルの汁はほんの少しでいいと、明確に申し上げたつもりだが? ミス・ボーンズ。我輩は何度君に手元を見て作業をするようにと言えば、理解していただけるのかな?」


赤くなってうつむいたスーザンが涙ぐんでいるのを見て、フィービーは黙っていられなくなった。


「先生、お願いです。私に手伝わせてください。スーザンにちゃんと直させます──」

「君にでしゃばるよう頼んだ覚えはないがね、ミス・ディゴリー」


スネイプ先生は授業の最後に、スーザンが調合した薬をネビルのヒキガエルに数滴飲ませて、どうなるか見てみることにすると言い出した。報復に燃えるスネイプ先生は、飼い主からよく逃亡するヒキガエルのトレバーをわざわざ捕まえたのだろうか。

それより目下の問題は、真っ青になったスーザンだ。
やり直しを命じられるのは今回が初めてではないので、調合がうまくいかなかった薬を復旧する手立ては前もって調べてある。フィービーはスーザンに目配せして、大丈夫だと伝えたが。


「ミス・ディゴリーは我輩の机の前のテーブルへ移動だ。ミス・ボーンズの耳元でひそひそ指図を与えてはいけませんからな」


スネイプ先生に先手を打たれた。

荷物をまとめる振りをしながらフィービーは、自分の魔法薬学の教科書をこっそりマーサに手渡した。謎のプリンスを見習って色々書きこみした中から、縮み薬の復旧策を同室者たちが見つけてくれることを祈るばかりだ。

フィービーは材料を全部入れて煮込むだけになった鍋とカバンを持ち、空席になっている一番前のテーブルに向かう。歩きながらフィービーは心を無にするように努めた。

必要の部屋でフィービーはレギュラスが全力でかけてきた開心術を、1時間以内に防ぐことができなかった。

フィービーが制限時間を延長してくださいと必死に頼み倒したとき、どこからか本が落ちてきた。擦り切れた革綴じの古い本にはルーン文字の題が型押しされて、表紙の裏にはアークタルス・ブラックと名前が書いてあった。
レギュラスはその本の解読にすっかり夢中になったので、フィービーは物忘れシロップを飲むことを免れたが、この授業中にスネイプ先生に開心術をかけられて、レギュラスとの繋がりを知られたらどうなるか考えたくもない。
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