あらがうもの

□まね妖怪
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相変わらず曇り空だったけど、気が滅入ることがあったので、フィービーは屋外に出られるのが嬉しかった。
昼食を済ませたフィービーはマーサやジャスティンやアーニーと一緒に、禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋を目指した。

外で待っていたハグリッドはうなだれて、見るからに落ちこんでいた。巨大なボアファウンド犬のファングはクゥンと鳴いて、元気のない飼い主を気遣うように見上げている。


「あー……みんな集まったか? そんじゃ、授業を始めるぞ。イッチ番最初にやるこたぁ、教科書を開くこった──」

「どうやって教科書を開けばいいんです?」


冷たい声音で尋ねたスミスに向かって、マーサがむっとした口調で言い返した。


「フィービーが談話室でみんなに教えてくれたじゃない。背表紙を撫でれば大人しくなるって」

「僕はジョイスとは違って、ディゴリーの話にいちいち耳を傾けるほど暇じゃないんでね。それに僕はハッフルパフの談話室にいなかった、レイブンクロー生の意見も代弁しているつもりだ」


合同で授業を受けるレイブンクロー生が取り出した『怪物的な怪物の本』は、紐でぐるぐる巻きにされていたり、きっちりした袋に押しこまれていたりした。


「僕たちの手を噛み切ろうとする本を持たせるなんて、前代未聞の先生だよ。もうすぐ先生じゃなくなるけどね。残念だなぁ」


スミスの嫌みを聞いたレイブンクロー生の何名かが、戸惑うハグリッドをちらりと見て忍び笑いをした。

授業を始めようとしていた彼は一部の心無い生徒の反応にショックを受けて、言葉が出なくなってしまったようだ。

スミスに反論しかけたフィービーより先に、レイブンクロー生のマイケル・コーナーが声をあげた。


「僕はスミスと一緒に学ぶ羽目になったことが残念だよ。ハグリッド、授業を続けて」


怒りで顔がピンク色になったスミスを見て溜飲を下げたフィービーは、マイケルに目配せして感謝を伝えた。

しょげていたハグリッドはなんとか持ち直したらしく、小屋の戸口に置いてあった2つの木箱を抱えて生徒の前に戻ってきた。
1つの木箱には山ほどのレタスが盛られ、もう1つの木箱の中には褐色の大きなイモムシのような生物がひしめきあっている。

フィービーをのぞく女子生徒が──マーサは両手で口を押さえて、なんとか堪えていたが──嫌悪の声をあげた。


「こいつはレタス食い虫だ。成長すると25センチくらいの大きさになるぞ。頭と尾の見分けがつかねえけど、好物のレタスを飲みこんだほうが口のある頭ってことだ。牙や歯はないから噛まれる心配はねえ」

「レタス食い虫の体の両端から出る粘液は、魔法薬を濃くするのに使われるんだよね。スネイプ先生に粘液をあげれば喜ぶんじゃないかな」

「おう、さすがフィービーだ。ハッフルパフに10点やろう。そんじゃ、みんなでレタス食い虫にレタスをやりながら、粘液を集めてくれ」


余計な仕事を増やしてくれたな、と言わんばかりの視線を浴びせられたけど気にしない。
フィービーとマーサは小屋に容器を取りに行ったハグリッドを手伝いながら、悪いのはマルフォイのほうだから負けないで頑張ってと伝えた。

暗い顔でため息をついたハグリッドは、学校の理事に初めから飛ばしすぎたと注意を受けたと話した。


「フィービーの言うとおり、ナールにしときゃよかったんだ……マルフォイは昨日の昼前に退院したけんど、怪我した右腕に包帯を巻いて吊っとる……俺がクビになるのは時間の問題だ……」

「マダム・ポンフリーなら切り傷くらい、すぐに完治させるわよ。マルフォイは汚い手を使って、怪我を最大限に利用しようとしているんだわ」


怒りに任せたマーサの意見に続いて、フィービーも励ましの言葉をかけた。


「それにハグリッドは事前にヒッポグリフの説明をして、怪我をしたマルフォイを医務室に運んで先生としての責務を果たしたんだから、そんなに自分を責めないで」


厚手木綿のオーバーの袖で目元をぐいと拭ったハグリッドは、涙で詰まった声で「2人とも、ありがとな」と言った。
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