あらがうもの

□スリザリンの継承者
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〜レギュラス視点・続き〜



思わぬ武器の出現にリドルは焦ったのか、先ほどより鋭い蛇語で命令を出した。

バジリスクは塞がれた両眼から血を流しながらも、振動を察知する皮膚感覚と嗅覚を頼りに、大きく口を開けてポッターを飲みこもうと襲いかかった。

3度目の攻撃で大蛇は逃げまどう標的を捉えたが、ポッターは剣に体重をかけて蛇の口蓋に深々と突き刺した。

生命活動を絶たれたバジリスクは横様に床に倒れたが、折れた毒牙の破片をポッターの腕に残して一矢を報いた。

立派に戦った毒蛇の王が惨たらしい姿で痙攣しているのを見て、レギュラスは毒薬を飲んで苦しむクリーチャーを不意に思い出してしまった。


「ハリー・ポッター、君は死んだ。ダンブルドアの鳥にさえそれがわかるらしい。鳥が何をしているか、見えるかい? 泣いているよ」


バジリスクを喪ったせいで気が動転しているのか、リドルはポッターの臨終を見物するなどと悠長なことを言い出した。

芝居のポッターは大蛇の毒が体に回りながらも、手近にあった日記にとどめを刺していたが、実際のポッターは壁にもたれかかり、スリザリンの石像の足元に放置された日記を取りに行く体力や気力はないように見えた。

レギュラスとしてはポッターがこのまま息絶えれば、闇の帝王が意図せずに作った分霊箱も葬れて一石二鳥なのだが。


「鳥め、どけ。そいつから離れろ。聞こえないのか。どけ!」


ポッターの負傷した腕に頭を預けていた不死鳥はリドルの魔法攻撃をかわして、長い金色の尾羽と胴体の真紅が忌々しい色の輪を描きながら舞い上がった。


「不死鳥の涙……そうだ……癒しの力……忘れていた……しかし、結果は同じだ。むしろこの方がいい。一対一だ。ハリー・ポッター……2人だけの勝負だ」


レギュラスは決闘の邪魔にならないように下がる振りをしながら、フィービーとセドリックのそばに近寄った。

リドルが杖を振り上げた瞬間、不死鳥は離れた場所にある日記を金色の鉤爪でつかんで舞い戻り、ポッターの膝にそれを落としていった。

ダンブルドアは全部見透かしているのではないかとレギュラスが思ったとき、ポッターがバジリスクの牙を日記に突き立てた。

耳をつんざくようなリドルの悲鳴が長々と響く中、レギュラスはセドリックと折り重なるように倒れたフィービーに杖を向けた。
迷っている暇はないのに、まぶたを閉じたフィービーを見るとためらいをおぼえた。

彼女と過ごした4年間は気苦労が絶えなかったけれど安らぎに満ちて、飼い猫として生きる惨めさや人間としての尊厳さえ時折忘れかけてしまい、何度も逃げ出したくなった。
それでも家族を救ってもらった恩もある手前、世界の命運を左右する記憶を持つ彼女を守らなくてはいけないと、自分に言い聞かせてきたが。

本当は名門ブラック家の次男としてではなく、ただのレギュラスを必要としてくれる、フィービーのそばにいたかっただけかもしれない──。

感傷じみた物思いを振り払うようにレギュラスは今度こそフィービーに忘却術をかけ、動かなくなったバジリスクを迂回して全速力で走った。
薄暗いトンネルに出ると、背後で石の扉が閉じる音が聞こえた。蛇語を話せるポッターが中にいるから、内側から開けられるだろう。

閉ざされた石の壁を封じるように絡み合った2匹の蛇の彫刻を見つめながら、毒蛇の王とスリザリンの末裔に追悼の祈りを捧げたあと、レギュラスは自身に目くらまし術をかけて立ち去った。


第15章『夏学期の終わり』へ

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