あらがうもの

□スリザリンの継承者
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〜レギュラス視点・続き〜



「わかったね? この名前はホグワーツ在学中にすでに使っていた。もちろん親しい友人にしか明かしていないが」


レギュラスの父のオリオンは学生時代からトム・リドルの正体を知っていたと聞くが、生涯を通して死喰い人に加わらなかった。

慎重かつ狡猾でブラック家の人間としての誇りを失わなかった父を知るリドルから、本当にオリオンの息子かと聞かれたとき、レギュラスは強い羞恥の念に駆られた。
落ちぶれた自分の有様が、長い歴史を誇るブラック家や両親の名誉をも貶めていると痛感させられた。


「汚らわしいマグルの父親の姓を、僕がいつまでも使うと思うかい? 母方の血筋にサラザール・スリザリンその人の血が流れているこの僕が? 汚らしい、俗なマグルの名前を、僕が生まれる前に、母が魔女というだけで捨てたやつの名前を、僕がそのまま使うと思うかい? ハリー、ノーだ」


闇の帝王の根底にあるのは、母親がマグルの男に捨てられた私怨で間違いなさそうだ。

大昔から近世に渡って魔法族を迫害し続けたマグルを許さないという、サラザール・スリザリンの末裔としての動機もあるだろうが、それを宿敵のポッターの前で語らないところを見ると、スリザリン出身の純血主義者をまとめる口実としての意味合いが強いようだ。

レギュラスは自分の死を偽装してからトム・リドルの経歴を密かに調べたとき、闇の帝王の根源を推察してひどく幻滅したものだが、彼の末路を知った今は哀れみを感じる。
だからといって、救いの手を差し伸べようとは思えないが。

考えに没頭していたレギュラスは、怒りか憎しみで息を荒げたポッターの声で現実に引き戻された。


「君は世界一偉大な魔法使いじゃない。君をがっかりさせて気の毒だけど、世界一偉大な魔法使いはアルバス・ダンブルドアだ。みんながそう言ってる」


あきらかにスリザリン生を排除したポッターの主張は、傲慢で独善的だったジェームズ・ポッターを想起させて、レギュラスを苛立たせた。


「君が強大だったときでさえ、ホグワーツを乗っ取ることはおろか、手出しさえできなかった。ダンブルドアは君が在学中は君のことをお見通しだったし、君がどこに隠れていようと、いまだに君はダンブルドアを恐れている」


微笑みを消したリドルの整った顔は醜悪になった。


「ダンブルドアは僕の記憶に過ぎないものによって追放され、この城からいなくなった!」

「ダンブルドアは君の思っているほど、遠くに行ってはいないぞ!」


はったりをかましたポッターに言い返そうとした、リドルの表情が凍りついた。

どこからともなく、妖しく背筋が粟立つような、この世のものとは思えぬ旋律が聞こえた。

すぐそばの柱の頂上で炎が燃えあがり、ダンブルドアが飼っている深紅の不死鳥が現れた。

不死鳥はボロボロの組分け帽子をポッターの足元に落として、ポッターの肩にとまった。


「ダンブルドアが味方に送ってきたのはそんなものか! 歌い鳥に古帽子じゃないか! ハリー・ポッター、さぞかし心強いだろう?」


高笑いしたリドルは昂然とした笑みを浮かべたまま、「本題に入ろうか」と言った。


「2回も──僕の過去に、僕にとっては未来だが──僕たちは出会った。そして2回とも僕は君を殺し損ねた。君はどうやって生き残った? すべて聞かせてもらおうか」


事件の種明かしをしながら、ウィーズリーの娘から着実に魂を搾り取っていたリドルの輪郭は、はっきりしたものになりつつある。

自分の杖を奪われたことにようやく気付いたポッターは、早く片をつけようと決心したようだ。
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