あらがうもの
□秘密の部屋
1ページ/4ページ
〜セドリック視点〜
今日はセドリックにとって、生涯最悪の日になるだろう。
トロールが城内に入ったときにフィービーが寮に戻ってこなかったり、ひと晩中フィービーが行方不明になったりしたときも生きた心地がしなかったが、今回妹は戻ってくる望みはないのだ。
昼前の授業が始まる前に、マクゴナガル先生が教師を職員室に召集する緊張した声が城中に響き、ほどなくして生徒たちは先生に引率されて各寮に戻された。
談話室に入ったセドリックは青ざめたスプラウト先生から、フィービーがジニー・ウィーズリーと共に、秘密の部屋に連れ去られたと告げられた。
動転したセドリックは、なにかの間違いではないかと言ったが。
フィービーが変身術の教室で突然姿をくらました瞬間を、同級生が何人も目撃していたらしい。
しかも、スリザリンの継承者は最初に残した文字のすぐ下に、【彼女たちの白骨は永遠に秘密の部屋に横たわるであろう】と書き残したという。
それを聞いたフィービーの友達は一斉に泣き崩れ、クィディッチのチームメイトは嘘だと喚いたり嘆きの悲鳴をあげたりして動揺し、ほかの生徒も恐怖で混乱状態に陥った。
セドリックは絶望のあまり頭が麻痺したようになっていたが、スプラウト先生に付き添われてふくろう小屋に向かい、両親に凶報を伝えに行った。
途中でマクゴナガル先生に付き添われた顔面蒼白のパーシーとすれ違ったが、お互い言葉をかわす気力さえ起こらなかった。
明日一番のホグワーツ特急で生徒は帰宅させられ、学校は閉鎖される。
世界でたったひとりの妹のフィービーを置き去りにしたまま、家に帰るなんてできない──。
セドリックは暗くなりつつある寝室の丸い窓を見るともなしに見ながら、フィービーが生存しているわずかな可能性を模索していた。
考えれば考えるほど絶望的な現状が浮き彫りになる一方だったが、頭を働かせていないと悲しみと後悔にのまれてどうにかなってしまいそうだ。
フィービーが探偵ごっこを続けていることは、4日前の朝食時にバジルに忠告されて把握していたのだから、試験が終わるのを待たないで両親に報告して妹を家に帰していればよかった。
おそらくフィービーは事件の真相に近づきすぎて、秘密の部屋に連れ去られたのだろう。
フィービーと一緒に事件を探っていたと思われるハリーたちは、秘密の部屋の入口か、怪物もしくは継承者の見当がついているのかもしれない。
賢者の石を守ったときのように、自分たちだけで事件を解決しようと考えて先生に重要な情報を伝えてないなら、ハリーとロンを説得しなければ。
普段のセドリックは単なる憶測で危険な行動に出たりしないが、いまは正常な判断力を失っていたため、ふらりと立ち上がって寝室を後にした。
悲しみに打ち沈むハッフルパフ生はディゴリー兄妹が気の毒で何も言えず、セドリックが談話室を横切って寮の出入り口に向かっても、誰も止めようとしなかった。
マクゴナガル先生に相談しようと思ったセドリックが、職員室を目指して大理石の階段をのぼっていると、4階の廊下に向かう2人の生徒を見つけた。
あたりは闇に包まれはじめていたが、くしゃくしゃな髪のシルエットは見間違えようがない。
「ハリー、どこへ行くんだ?」
「セドリック? なんでこんなところに……悪いけど、君と話している時間はないんだ」
「秘密の部屋に行く気か?」
歩いていたハリーとロンは、互いに顔を見合わせたが何も答えなかった。
信じがたいことに、仮定が当たってしまったらしい。
君たちだけでは危険だとセドリックが忠告すると、ロンが怒ったように「わかってるよ」と言い返した。
「これからロックハートに会いに行くんだ。あいつはマクゴナガルたちに言われて、秘密の部屋に入ろうとしている。部屋の場所と怪物の正体を、あいつに教えてやるつもりさ」
生徒の前でまともな魔法を使った試しのないロックハート先生は、あまり頼りにならなさそうだとセドリックは思ったが、すでに防衛術教師の部屋の前にたどり着いていた。