あらがうもの

□秘密の部屋
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〜セドリック視点・続き〜



「オォォォゥ、怖かったわ。まさにここだったの。この小部屋で死んだのよ。よく覚えてるわ。オリーブ・ホーンビーがわたしのメガネのことをからかったものだから、ここに隠れたの。鍵をかけて泣いていたら、誰かが入ってきたわ。何か変なことを言ってた。外国語だった、と思うわ。とにかく、いやだったのは、しゃべってるのが男子だったってこと。だから、出ていけ、男子トイレを使えって言うつもりで、鍵を開けて、そして──」


女の子のゴーストは偉そうにそっくり返って顔を輝かせながら、「死んだの」と締めくくった。

ハリーは「どうやって?」と聞いたが、彼女は小声で「わからない」と答えた。

女の子のゴーストが死の直前に覚えていることは、手洗い台のあたりにあった大きな2つの目玉だという。

ハリーとロンは急いで、ひび割れた手洗い台に近寄った。
どうやらここが怪物の出入り口になっているらしいと察したセドリックも、下のパイプを調べはじめた。

ほどなくしてハリーが銅製の蛇口の脇のところに、引っ掻いたような小さな蛇の形が彫ってあるのを見つけた。


「ハリー、何か言ってみろよ。何か蛇語で」


自在に蛇語をしゃべれるわけではないのか、ハリーは眉をぎゅっと寄せて必死に考えているようだったが、普通の言葉で「開け」と言った。

首を横に振ったロンとセドリックの反応を見て、ハリーは首を動かしながら再び小さな蛇の彫物を見つめた。
今度は彼の口から、奇妙なシューシューという音が発せられた。

すると蛇口がまばゆい光を放って回りはじめた。次の瞬間、手洗い台が沈みこんで見る見る消え去ったあとに、大人が滑りこめるほどの太さのパイプが剥き出しになった。

息をのんだセドリックとハリーとロンは互いに目配せした。

ハリーやロンを魔法で大人しくさせてから先生に知らせに行ったほうが、これ以上犠牲者を増やさずに済む。

だけど、フィービーとジニーがまだ生きていたとしたら。
彼らと決闘しているあいだに、大事な妹を永遠に喪ってしまうかもしれない。


「僕はここを降りていく」

「僕も行く」


迷いなく宣言したハリーとロンに続いて、良識と戦ったセドリックは「行くよ」と答えた。

一瞬の空白のあと、後ろのほうに下がっていたロックハート先生が「私はほとんど必要ないようですね」と言いながら、ドアの取っ手に手をかけた。

この人にほかの先生への伝言役は任せられない。

ロンがロックハート先生に向かって「先に降りるんだ」と凄んでいるあいだ、セドリックは女の子のゴーストに話しかけた。


「君に頼みたいことがある」

「なぁに? わたし、今すごく機嫌がいいから聞いてあげるわ。それにあなた、とってもハンサムだし」

「先生たちのところに行って、ここに秘密の部屋があることを伝えてほしい。そしてセドリック・ディゴリーとハリー・ポッターとロン・ウィーズリーの3名が、秘密の部屋に向かったことも」

「本当に行くつもり? あなた達、死んじゃうわよ?」


心配するような口調だったが、女の子のゴーストは期待を隠しきれずに口角を上げていた。

そのときパイプの入口に近づいたロックハート先生が、ロンに背中を押されて突き落とされた。


「僕の妹と近所の子が連れ去られてしまったんだ。助けに行かないといけない」

「事情はわかったわ。あなたの名前はたしか、セドリックだったわね?」

「そうだよ。えっと……君の名前は?」

「マートル・ウォーレンよ」

「頼むよ、マートル」


頬を銀色に染めたマートルは「任せてちょうだい」と答えて、壁を通り抜けていった。

しばらくすれば、先生方がここに駆けつけるだろう。

セドリックはハリーとロンが入りこんだパイプに身を投じた。
ぬるぬるした暗い滑り台を果てしなく急降下しているようだった。
深く落ちていく途中、あちこちで四方八方に枝分かれしているパイプが見えた。

このまま底に着地したら骨折では済まないと予感したセドリックは、自分が先に行かなかったことを遅ればせながら悔いた。
不意にパイプが平らになってセドリックの体が放り出され、湿った音を立てて石の床に落ちた。


「ロン! ハリー! 無事か?」

「僕は平気。学校の何キロもずーっと下の方に落ちたみたいだけど」

「湖の下だよ、たぶん。全身ベタベタになったこと以外は、無事だよ」
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