あらがうもの
□初試合と決闘クラブ
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初試合になるレイブンクロー戦の朝、フィービーは早々に目を覚ました。
先学期末に賢者の石を守る罠を突破するときでさえ、こんなに緊張した記憶はない。
フィービーは同室者たちを起こさないように、そっと起き出して服を着た。
マーサのベッドの柱にかけられた大きな青たまねぎの束を見て、思わず眉をしかめた。
ロベルタとサミーの襲撃以降、先生に隠れて護身用グッズの取引が、校内で流行りだした。
マーサはレイブンクローの3年生のエディ・カーマイケルに、魔除けの効果があるとそそのかされてあの青たまねぎを買った。
ジャスティンはレイブンクローの3年生のハロルド・ディングルの口車に乗って、尖った紫水晶や腐ったイモリの尻尾をどっさり買いこんだ。
気休め程度しか効果がない割に値段がぼったくりだったので、フィービーはレイブンクローの監督生のペネロピー・クリアウォーターに、きちんと取締りをしてくれるように依頼した。
空き教室から出てきたペネロピーは機嫌が良さそうに見えたが、フィービーにせっつかれてかちんときたのか、『騙されるほうも悪いとは思わない?』と言った。
人の弱みにつけ込んだ詐欺同然だから、騙すほうが悪いに決まっている。
フィービーが強く言い返したとき、ちょうど通りかかったパーシーに、監督生に対する口のきき方がなっていないと注意された。
それに加え、防衛術の授業後にロックハートに呼びとめられて、益体もない自慢話を聞かされたのが決定打だった。
『ミス・ディゴリーは同学年の女子の中では、なかなかの飛び手だと聞いているよ。たしか君のお兄さんはシーカーだったね? 私もレイブンクロー・チームのシーカーだった。ナショナル・チームに入らないかと誘いを受けたのですがね。闇の魔術を根絶することに生涯を捧げる生き方を選んだのですよ。しかし、軽い個人練習を必要とすることがあったら、レイブンクロー戦以降であればご遠慮なくね。いつでも喜んで、私より能力の劣る選手に経験を伝授しますよ……』
初めてハリーの辛さがわかったとフィービーが愚痴ると、ハリーは遠い目になって『あいつは僕にも同じようなことを言ったよ』と話した。
そんな経緯もあって、フィービーのレイブンクローに対する敵対心はかつてなく燃え上がっていたのだが。
「おはよう」
ハッフルパフのテーブルにふらりと近寄ったルーナは、夢みるような声であいさつした。
彼女の右頬にはレイブンクローのシンボルの鷲が、左頬にはハッフルパフのシンボルの穴熊が描かれている。
絵は文句なく素晴らしいのだが、ルーナの鼻を横切って点滅する【ディゴリー家の娘をドラゴン使いに】という文字のほうがどうしても目を引いた。
「ルーナ、おはよう。とっても上手なペイントだね」
「ありがとう。今朝自分で描いたんだ。あたし、自分の寮だけじゃなくてハッフルパフも応援してるよ。フィービー、セドリック、頑張ってね」
来たときと同じようにルーナがふらりと立ち去ったあと、フィービーは両手で自分の頬を叩いた。
膝の上にいたバジルは驚いて飛び跳ねた。
フィービーの両隣に座っていたセドリックとオスカーは、ぎょっとしたように言った。
「フィービー、どうしたんだ?」
「さっきの不思議ちゃんのオーラにあてられちゃったか?」
「いい意味でね。あやうく私怨だけで試合に臨むところだったよ」